2017.03/20 [Mon]
北山猛邦・佐藤友哉(作)&片山若子・笹井一個(画)『おはなしごほん』
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★★★★☆
待っていて、必ず戻るから
冬になると海の向こうから流れてくる流氷の中から出てきた猫人間のクロと「わたし」の出逢いと別れを綴った「猫倫敦」。ある日空一面に咲き誇った花の影響で人々が殺し合い、少女と「おれ」が死屍累々の街を往く「花下」。北山猛邦と佐藤友哉による2編を収録したミニ絵本。
北山猛邦の「少年検閲官」「音野順」シリーズの表紙絵を手掛けるイラストレーターの片山若子と佐藤友哉の「鏡家サーガ」でお馴染みの笹井一個が画集『渋皮栗』と『ガソリン』の発売を記念して2011年に制作された同人誌です。
高さにして15cm、総ページ数36Pのミニマムなつくりながら一般の書籍と何ら遜色ないくらいにしっかりとした装丁、全編に渡り温かみあるフルカラーの挿画は溜め息が出るほど美しく、素敵な小品と呼びたくなるような仕上がりです。文章に添えられたイラストがふたつの物語と響き合って作品世界を拡げ、読み手の心を惹き込みます。
一本目となる北山猛邦「猫倫敦」は毎冬、猫の閉じ込められた流氷が漂着する町で氷を溶かし猫を取り出す作業を行う祖父と「わたし」の元にある日、耳としっぽの生えた猫人間がやってくるというお話。海の向こうの猫倫敦からネコールドスリープさせた猫を送り出す業務に携わっていたという彼は、やがて人間たちの注目を浴びそのことがきっかけで猫警察によって猫文明種の世界へと強制送還させれてしまいます。メルヘンでどこか静謐な空気感が北山猛邦らしく、本格ミステリとまったく無縁に思えるストーリーと絵本という媒体にあってWhyとHow、大がかりな物理トリックで物語を綺麗に着地させてみせる名篇です。
続く佐藤友哉「花下」も終末ちっくな世界観が特徴的で、セカイの終わりともいえる状況を無邪気に楽しむ少女と彼女と行動を共にしつつも自分の中で違和感を消化し切れない「おれ」が語り手です。空に花が狂い咲き、人々が暴徒と化した前、少女と「おれ」は恐らく厭世的で退廃を望んでいたのでしょう。それは思春期特有の“暗さ”なのかもしれません。
けれど、実際そうなってしまうとやはり違う。破滅をもたらす花によって鮮やかに彩られた空の下、彼はそうしたポーズをかなぐり捨てて、絶望の中で自らの本心を見つめ直し明日への一歩を進んでいく。最悪な状況も言葉を繰ることでまるで真逆のものにしてしまうのはファウスト世代らしい視点でした。
普段のパートナーを敢えて交換し「猫倫敦」を笹井一個が、「花下」は片山若子をメインに据えていたのも意外です。流氷の寒色と花の暖色、前半と後半でそれぞれ対照的な色づかいながらどちらも「希望」の物語であり、読み終えた後に心に残る絵本です。
出版の経緯が経緯なためなかなか入手の難しい希少な品ではありますが、機会があれば是非手に取って頂きたい作品です。大切にしたいと思います。
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