2017.03/05 [Sun]
チャールズ・ソウル(作)&フィル・ノト(画)『スター・ウォーズ:ポー・ダメロン ブラックスコードロン』
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★★★☆☆
帝国の崩壊から30年。新たなる脅威ファースト・オーダーの台頭に、新銀河共和国を率いるレイア・オーガナ将軍はレジスタンスを組織して対抗する。こうして集められたレジスタンスの戦士の中に凄腕で知られたパイロット、ポー・ダメロンがいた。レイア直々の指名を受け、ブラックスコードロンの一員となったポーは、相棒のBB‐8と共に決死の極秘任務に挑む!
「スター・ウォーズ:ポーダメロン」第1作。
ヴィレジブックスから刊行中の「スター・ウォーズ」アメコミ邦訳最新作は『フォースの覚醒』からポー・ダメロンを主役に据えたその名も「ポー・ダメロン」誌の第1集に加え、日本オリジナル編集として同一時代を舞台にした短編コミック「C-3PO」、巻末にBB-8のミニストーリー「サボタージュ」を収録した過去最大ボリュームの1冊です。
「スター・ウォーズ」「ダース・ベイダー」両シリーズに留まらず、いま最も関心が高く、誰もが気になる続三部作関連作のリリースというだけでも大感謝なのに、単品での邦訳刊行が絶望的な短編までをも合本し、でき得る限り日本のファンに届けようという姿勢には頭が下がります。ありがとうヴィレジブックス! ありがとう編集部!
『フォースの覚醒』より少し前、徐々に力をつけつつあるファースト・オーダーと最高指導者スノークの脅威に備え、行方不明のルーク・スカイウォーカーを探し出すことが急務と考えたレイアはレジスタンスの中でも腕利きのパイロットであるポーを呼び出し、前段階としてその鍵となるジェダイ信奉者の探検家ロア・サン・テッカ(作中表記ではロー・サン・テッカ)の消息を辿る任務を下します。それに際してポー自らの人選によって構成された部隊が、副題にもなっているブラックスコードロンです。
そのメンバーはというと『EP7』のタコダナ戦でも活躍し『アフターマス』で主人公格のひとりであるテミン・ウェクスリーと『ジェダイの剣術を磨け!』の導入パートで3POにルークの話をねだったジェシカ・パヴァ、『砕かれた帝国』でポーの母シャラ・ベイと共に戦禍を潜り抜けたデュロスのエルゥロ、『フォースの覚醒前夜』にてポーと共に新共和国軍に籍を置くカレ・キューンに続三部作が初出となるエイリアン種族アベドネドのオディ・ムヴァの5名であり、カノンのスピンオフに親しんでいる読者にとってはあの人やこの人が!というまさにドリームチームといえるでしょう。
仲間たちに対する篤い信頼と抜群の操縦テクニックを誇りながら案外ヌケていてどこまでも人間臭いポー、ドロイド隊のリーダーとして任務をこなしチームのピンチを救うBB-8の両人もますます好きになりました。『EP7』のファンキーなノリを体現していたといって良いサムズアップも再びお目に掛けられ、これがBB-8のお気に入りのアクションだと思うとさらに愛嬌を感じます。
他にも「スター・ウォーズ」シリーズの『ナー・シャッダの決斗』からグラッカス・ザ・ハットも登場し、今作でも並み居るハットたちとはひと味違った知的で聡明な性格を覗かせます。カノンの作品群を知っていればより楽しく、逆にここから新規で手を出す人にはその魅力が倍増する重層的な面白味を提供してくれる。
映画のワンシーンでちらっと映っていたあのキャラたちにこんな過去や関わりがあったのか、と知ることでさらに本編に耽溺できるのがなんといっても「SW」スピンオフの魅力です。本シリーズを読めば『EP7』がこれまで以上に味わい深くなるハズです。
一方でまだまだ小出しにしている部分も多く、ブラックスコードロンと衝突を繰り返す敵役エージェント・テレックスの正体もそのひとつです。トルーパーからの叩き上げであり、ファースト・オーダー諜報部の将校にまで上り詰めた彼の人となりは現段階ではまったく明らかにされていません。キャプテン・ファズマ相手にも不遜な態度を崩さず、グラッカスやメガロックス・ベータに収監中の大物犯罪者たちとも旧知、かつてターキンの旗艦であったかのキャリオン・スパイクを所有するテレックスはとても一介のファースト・オーダー軍人とは思えず、ここでいうトルーパーがFOではなく帝国、もっといえば旧共和国時代――クローンたちと肩を並べて戦っていた可能性すら考えられます。
そもそもキャリオン・スパイクは『ターキン』で反乱分子によって奪取されているわけで、どういったパイプからテレックスの私物になったのかは本作もしくはカノンの今後を占う上でかなり重要なファクターとなってきそうです。
もうひとつ興味深いのがブラックスコードロンが最初に訪れる惑星で祀られている光る卵と、それを見守る謎の養育団の存在です。ロア・サン・テッカはかつてこの教団と共に過ごし、その教義を学んだといいます。
劇中、同じくロア・サン・テッカの足跡を求めて乗り込んできたファースト・オーダーとの戦闘の最中、巨大な卵は孵化し中から翼の生えた光る人型の怪物が誕生するのですが、銀河に救済をもたらすとされるそれは養育団の人々を容赦なく襲います。そこで登場するのが全身に赤い筋の入ったもう1体の黒い怪物で、青白く光る生まれたばかりの巨大生物と死闘を繰り広げた末に教団の人々を連れて何処へと飛び去るのです。
ここで思い出しておきたいのがロア・サン・テッカはジェダイの信奉者であり、フォースにまつわる地を訪れて廻る探検家であるという点でしょう。すなわち、この謎の養育団と卵はフォースに関係のある存在と見るのが妥当です。
そして、白と黒――似た姿のふたつの怪物の争いと、救済する者、フォースときてモーティスのサンとドーターことザ・ワンズを連想するのは難しいことではありません。『EP7』のカイロ・レン始め『反乱者たち』のベンドゥやその教えを受けるケイナン、ジェダイオーダーから離れたアソーカ、シスから破門されたモールといったライトサイドやダークサイドとは一概に言い切れない中道のフォースの使い手が増えつつある現状のカノンにおいて、旧レジェンズで「Fate of the Jedi」時代に猛威を振るい、ジェダイとシス共闘のきっかけともなったザ・ワンズが再度クローズアップされ、大きな役割を担う可能性は決して少なくないのではないでしょうか。
これもまた、のちのちどこに着地させるのか気になります。ちゃんと回収してくださいよ?
短編コミック「C-3PO」はこちらも『EP7』の前日譚にして、なぜ3POの左腕が赤くなったのかが語られる読み切り作。任務遂行中に乗っていた船が大破し、未開の惑星を踏破することを余儀なくされたレジスタンスのドロイドたちと、その捕虜であるファースト・オーダーのドロイドO-MR1のサバイバルが骨太なタッチで描かれます。
邦訳では省略されている副題の「ファントム・リム」は3POの失った左腕と仲間たちのことであり、消去されたハズのメモリーの奥にちらつく見知らぬ記憶とのダブルミーニングです。ドロイドはプログラミングされたとおりにしか動けない存在なのか、そこに自我はあるのか、自由は?意思は?といった存在意義に切り込むハードな作風だったのは意外でした。ふとした瞬間に3POの脳裏に蘇るムスタファーやナブー、コルサントの情景は新三部作の顛末を知っていると胸が絞めつけられます。当時の記憶が残っているのはR2だけだったけれども、3POも相棒と共にアナキンやパドメ、オビ=ワンの姿を常に見てきたのです。
読ませるストーリーである反面、それなら逆になぜ『EP7』のラストで3POの腕が金色に戻しているのかという新たな疑問を生んでしまったような気も。回答次第では台無しになりそうで怖いですね。
『ロ-グ・ワン』のK-2SOも元は帝国のドロイドですけれど、再プログラミングというのはどの程度人格に影響を及ぼすのか、過去を保持したままキャシアンと組んでいるのか、そのあたりの経緯もいずれ明らかにしてほしいところです。
巻末にはショートコミックの「サボタージュ」も所収。本国では「ポー・ダメロン」誌の第1号に掲載され数ページのおまけ漫画で、互いに意識し合いながらなかなか喋る機会のないままでいるレジスタンス基地で働くエンジニアの女性ととあるパイロットのため、BB-8が強引なお節介を焼くというお話です。ジュニア向けの絵本のようなゆるっとした絵柄と内容にほんわかさせてくれます。
ちなみに時系列的にはポーがレジスタンス入りを果たす『フォースの覚醒前夜』のポー編→「C-3PO」→「サボタージュ」→「ポー・ダメロン」となる模様。『ポー・ダメロン』も単巻ものでないため、続きの邦訳も是非ともお頼み願いたい。
次回配本は5月に『ローグ・ワン』の前日譚小説『カタリスト』! 6月発売予定の「スター・ウォーズ」誌、第3作『サンスポットの騒乱』と併せてこちらも楽しみです。
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