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300冊の積読本もなんのその、本や映画の感想などをつらつらと述べてみたり。

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島田荘司『改訂完全版 異邦の騎士』

異邦の騎士 改訂完全版異邦の騎士 改訂完全版
島田 荘司

講談社 1998-03-13
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★★★★☆
失われた過去の記憶が浮かび上がり、男は戦慄する。自分は本当に愛する妻子を殺したのか。やっと手にした幸せな生活に忍び寄る新たな魔手。名探偵・御手洗潔の最初の事件を描いた傑作ミステリー『異邦の騎士』に著者が精魂こめて全面加筆した改訂完全版。幾多の歳月を越え、いま異邦の扉が再び開かれる。


「御手洗潔」第4作。
 島田荘司のライフワークにして日本を代表する名探偵、御手洗潔ものの代表作にして“最初の事件”と銘打たれた長編ミステリ。発表順としてはシリーズ4作目に位置しますがその実、デビュー作『占星術殺人事件』よりも以前に書かれた文字通りの処女作です。
 物語は記憶喪失の男が運命の女性と出逢い、元住吉のアパートで一緒に暮らし始めるところからスタートし、やがて共に生活するうちに見つかるかつての自分の持ち物と思われる免許証、“過去の記憶”と犯したかもしれない罪の足跡に悩まされ、苛まれていく様子が描かれます。気付いたときには過去の記憶がすっぽり抜け落ち、何が何だかわけがわからないまま物語が進行するため語り手と読者が同じ視点に立つこととなり、現在の幸せな生活が壊されてしまうことへの恐怖や猜疑心、見え隠れする過去の影に対する不安がダイレクトに感じられるのも没入感を高めるのにひと役買っています。
 そんな中で記憶喪失の男にとって恋人の他に気の置けない唯一の存在として、追いつめられる友を想い誰より親身になって彼を救わんとする御手洗の果たす役割はただの探偵役に留まらず、本作の魅力の大部分は御手洗の優しさと温かみに依るところが大きいです。推理に飽かして奇行に走るエキセントリックなキャラクターだけでない、御手洗潔の人となりが存分に詰まっていました。

 また、本来の執筆順と刊行時期がズレたことによってストーリー面、ミステリ部分にも大きな効果を生んでいて、“御手洗潔の最初の事件”と聞いてシリーズ既読者の多くが想定する展開にはどうあってもなりそうにないらしい、という複雑性が事件の全体をより入り組んだものに見せ、容易には解き明かせないものへと変えています。
 『占星術殺人事件』『斜め屋敷の犯罪』『御手洗潔の挨拶』に続く4作目であればこそ意味があるのです。これが本来どおり、新人作家のいちデビュー作として単体で刊行されていたのなら、恐らく現在ほどの評価はされていなかったのではないでしょうか。
 加えて本作は記憶喪失というギミックを存分に活用したミステリであり、最先端の科学に謎を見出す手法はまさしく氏が後に提唱することになる「二十一世紀本格」のそれに相違ありません。そのスピリッツが既にデビューする前のこの段階から垣間見えるというのは非常に興味深いです。 
 『占星術』や『斜め屋敷』の驚天動地な大仕掛けに比べるとわかりやすいインパクトには欠けますが、その剛腕っぷりとはまた別の方向で本格ミステリ作家・島田荘司のオリジンと呼ぶに相応しい作品でした。


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はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

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1.トリプルプレイ助悪郎(2007年刊)   2.名探偵に薔薇を(1998年刊)             3.化物語(2006年刊)          4.時砂の王(2007年刊)                  5.天帝の愛でたまう孤島(2007年)

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