2017.01/26 [Thu]
青山文平『半席』
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★★★☆☆
若き徒目付の片岡直人に振られたのは、腑に落ちぬ事件にひそむ「真の動機」を探り当てることだった。精勤していた老年の侍がなぜ刃傷沙汰を起こしたのか。歴とした家筋の侍が堪えきれなかった積年の思いとは。語るに語れぬ胸奥の鬱屈を直人が見抜くとき、男たちの「人生始末」が鮮明に照らし出される。
父の代には叶わなかった永々御目見の旗本となるため日々ひたすらに職務に励む徒目付が、金も出世も興味なし昼行燈のような上役からごくごくたまに割り振られる“頼まれ御用”を通して、人々の生き様とそれぞれの裡に秘められた想いに触れていく時代小説。
完全ジャンル外の作家による非ミステリの時代小説ながら『2017本格ミステリ・ベスト10』において第14位を獲得し、一際異彩を放っていたのが気になって読んでみました。
あらすじからわかるように突如として人が変わってしまったかのような行動をとった者たちの「何故」にスポットを当てた作品で、ミステリとしてはホワイダニットに特化した連作集です。親交の深い人間に突然斬りかかり、捕えられた人々――そんな犯人たちが刃傷沙汰を起こしてなお「他人に話すほどのものじゃない」「大したことなくしょうもない」と黙して語らず、墓場まで持っていくと決めた動機が明らかになることで、隠されていた心の叫びが吐露されます。
他人様に危害を加えるには普通相応の理由があるハズで、見ず知らずの他人ですらない友人知人に刀傷を負わせておいて「しょうもない」も何もないだろう、とも感じるのですが、実際答えを聞くとストンと腑に落ちる。確かに「しょうもない」のです。しかしながらそれと同時に片岡によって解き明かされる真実は十分以上に得心のいくものであり、およそイコールで結ばれるとは思えない「しょうもない動機」と「大怪我させるだけの理由」が確かに両立するから驚きです。
悪いのは自分であり、ただの八つ当たりであるかもしれない。それでも凶行に及ばずにはいられなかった。一見して相容れない動機に対するこのふたつの視点が同居していることが、物語にいっそうの悲哀を浮かび上がらせるのです。
効かせた伏線が結末のやるせなささえ生む「真桑瓜」、ある人の楽しみが別の人間を苦悩に落とす「蓼を喰う」。人情と嫉妬と愛憎に塗れた人臭い事件はどこまでも悲劇的で、止めることができないからこそせめて本当の気持ちを受け止めたい。
そうはいっても本格ミステリの文脈で書かれた小説ではないため収録作中ミステリ色が濃いのは前4本に限られ、多少ムリくりな真相だったり、比較的見当のつきやすい話もありました。どちらかというとあまり広くアンテナを張らない傾向にある本ミス投票者がまったく別ジャンルの非ミステリ作家による時代小説にこぞって入れるほど強烈な訴求力を持つ作品であったかというと、そこまででもないと思います。
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