2017.01/18 [Wed]
アラン・ディーン・フォスター『スター・ウォーズ フォースの覚醒』
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★★☆☆☆
「エンドアの戦い」から約30年の月日が流れ、銀河の平和は帝国の復活を企む「ファースト・オーダー」によって再び脅かされていた。「レジスタンス」のリーダー、レイア・オーガナ将軍は、行方不明の兄、ルーク・スカイウォーカーの居場所を示した地図を手に入れるべく、使者を惑星ジャクーに放つ。使者からドロイドのBB‐8に託された地図を手に入れたのは、廃品回収を営む孤独な女性レイと、ファースト・オーダーからの脱走兵フィンだった。彼らの行く手にダース・ベイダーの崇拝者、カイロ・レンが立ちはだかる。それは、新たなる覚醒のはじまりだった――。
「スター・ウォーズ」ノベライズ 第7作。
2005年の新三部作完結から10年、ディズニーによるルーカスフィルム買収で再び動き出すこととなった「スター・ウォーズ」シリーズのナンバリングタイトル『スター・ウォーズ フォースの覚醒』こと『EP7』の公式ノベライズです。映画の公開は一昨年末でしたが、およそ半年以上後になってようやく邦訳版が刊行されるスケジュールはいまになって読み始めた自分が言えた義理ではないとはいえ、もう少しどうにかならなかったのかと。なるべく情報を秘した状態で映画を観てほしいという思惑から本国では封切りと同時に電子版が配信開始、その後1月ほど遅れて物理書籍が販売されたため、そこから翻訳作業に取り組まざるを得なかった事情は重々理解できますが、日本で出た頃にはとっくに公開終了しているじゃんよ。完全に売り時を逃しています。
ただでさえ日本はSW後進国でスピンオフが売れないのだから、もう少し考えてほしいものです。ましてやファンはできる限り、データを集めた上で万全の態勢で本編に臨みたいわけですからね。そのあたりの融通の利かなさは本当に殿様商売だなー。
その癖、ロア・サン・テッカを無駄にロー・サン・テッカ表記にするカノン安定の俺訳語。そこはパンフレットどおりで良かったろうに、どうしてそういう余計なことをするかねぇ。
本書を手掛けたのがアラン・ディーン・フォスターなのもいやらしいです。アラン・ディーン・フォスターといえば『EP4』公開時に刊行されたノベライズをルーカス名義でゴーストライターの役を担った人物としても有名で、『EP5』が制作される前に書かれた後日談小説でありいわば最初の「スター・ウォーズ」スピンオフともいえる『侵略の惑星』の著者でもあります。
旧三部作から30年ぶりの直接の続編(新三部作は過去編なので)である新たなサーガを、原典に立ち返ってもう一度同じ作者で!といういかにもな話題性を重視した懐古主義的発想は『EP7』本編、ひいては過去のコンセプトアートを流用しまくるディズニー政権下における新カノンに通ずる媚びを感じます。
事実、アラン・ディーン・フォスターの手による『侵略の惑星』や『崩壊の序曲』はファンの間でそれほど高く評価されているわけでなく、本書においても劇場で初見時に鮮烈な印象を与えたカイロ・レンの空中ブラスター止めやファルコンチェイスといった諸々のシーンがひたすら淡々とあっさり処理されていてまったく良さが伝わりません。
また、映画にはなかった場面としてポー生還の経緯とカットシーンに存在するアンカー・プラットがタコダナまで乗り込んでくるくだりが補完されているものの、こちらも大した分量でないためこのためだけに読むほどではありませんでした。
読者の知識がしばしば本文の記述を上回ってしまうのも問題です。『フォースの覚醒前夜』で明かされたタコダナ戦でフィンと対決し「Traitor(裏切者)!」のセリフで人気をかっさらったトンファー持ちのトルーパー、FN-2199“ナインズ”とフィンの因縁や赤いマスクのキャプテン・イサノが被っているはグリーヴァス将軍の種族カリーシュのものであるとか、マズ・カナタの城に『クローン・ウォーズ』のホンドー・オナカーの海賊団やマンダロリアン、『反乱者たち』ヴィザーゴ・シンジケートの旗印が掛かっているだとか、ファンには知られた細かなネタを総スルーしているのです。
そんなマニアックなことはどうでも良いと思う人もいるでしょう。しかし、そうした細かな繋がりこそが世界観を拡げ、面白味を生むのです。こちらの知らない情報をバンバン突きつけ圧倒してこその「スター・ウォーズ」小説。本書ではそれが抜け落ちてしまっています。
今回、最大のサプライズは序文でホイルス銀河史がカノン入りを果たしたことでしょう。「スター・ウォーズ」の物語はホイルス銀河史に記されたものだという設定は『EP4』ノベライズで触れられており、レジェンズでは旧三部作の100年近く後、R2-D2がスカイウォーカー家の物語をホイルスのシャーマンに伝えたと言われています。われわれの親しんだ物語はすべてこのホイルス銀河史によって語られたとされているのですが、一方でこの“ホイルス”とは何のことなのかは未だ謎とされ、ちょっとやそっとで踏み込めない領域でもありました。
これらは『ローグ・ワン』にてチアルートとベイズは巡礼の星ジュダのホイルス(ウィルズ)の元守護者という来歴で映像作品に本格的に取り入られるわけですが、本作での記述はその先駆けであり、今後の「SW」の方向性を大きく示唆するものかもしれません。
映画ではいまいちその因縁が伝わり難かったカイロ・レンとレイの関係も、本書を読む限り過去に何がしかの接点があったようにも思わされ、こちらも今年末公開の『EP8』、さらには『EP9』の展開を占う描写となりそうです。
とまぁ、不満ばかりが多くなってしまいました。出せ出せとさんざん述べてきて申し訳ないですが、小説としては退屈な出来だったので、ノベライズそのものに余程興味があるのでなければ素直に映画本編を観ることをお勧めします。
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NoTitle
パンフレットではご存じの通りロア・サン・テッカなのですが、フォースの覚醒吹き替え版のクレジットだとロー・サン・テッカなのです。
フォースの覚醒公式サイトなどを見る限り多分ディズニー的にはローが正しいという認識なのでこの小説はそれに沿ったものだと思いたいです。
同じ人が訳してるはずのジュニアノベル版がロアなのは……なんでなんでしょうね?