2017.01/16 [Mon]
高殿円『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』
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★★★☆☆
やっぱり、シャーリーは詩人だよ
2012年、オリンピック開催に沸くロンドン。怪我で除隊して以来、次の就職先が見つからない女医ジョー・ワトソンに、ベイカー街221bでのフラットシェアの話が舞い込む。だが、シェア相手が特別だった。同居人――シャーリー・ホームズは、頭脳と電脳を駆使して英国の危機に立ち向かう、世界唯一の顧問探偵だというのだ。ある日、女刑事グロリア・レストレードが訪ねてくる。遺体がピンク色に染まる中毒死が頻発しているらしい。いまだ無職のジョーはシャーリーに連れられて調査に赴く。それは、二人がコンビを組む、初めての事件だった。
コナン・ドイルによる「シャーロック・ホームズ」の物語の登場人物の性別を女性に置き換えて、舞台を現代へと移したパスティーシュ作品です。人形のように美しくも感情表現に乏しく、ロンドンの治安維持システムを自称する僕っ娘シャーリー・ホームズと、アフガン帰りの元軍医にしてティーン向けハーレクインを書いていた過去を持つジョー・ワトソンのコンビが活躍する表題作とふたりの友情を描いたボーナストラック「シャーリー・ホームズとディオゲネスクラブ」の2篇が収録されています。
胸に持病を抱え、移植に際して最新鋭のコンピューターシステムを搭載した人工心臓を埋め込んだ半電脳探偵、それらを遠隔管理するAIのミセス・ハドソンといった半ばSFじみたぶっ飛んだ設定は「ホームズ」愛好家には賛否割れそうなところですが、それだけに各人の性格付けは抜群です。雪広うたこによる美麗なイラストも相俟って原典とは別個の独立したキャラクターとして十分以上の魅力を放っています。
とはいえ事件の方はオリジナルに極めて忠実で、一酸化炭素中毒と見られる4人の女性の連続死の最後の現場に残された“RACHE(復讐)”の文字は『緋色の研究』のシチュエーションと同一です。他にも『四つの署名』を思わせるテムズ河でのチェイスあり、正典にもあるあれやこれやな事件を匂わせる記述あり、黒幕にお馴染みのアノ人が出てきたりと大きくいじっているようで意外や意外にそのままです。
むしろ一見キャラクター至上主義的なキャッチーな性別改変が作品ひいては事件の真相において大きな意味を持っており、『緋色の研究』を『緋色の憂鬱』に再解釈するにあたって女性ならではの視点が光ります。作者が違えば下品ともとられかねないネタをトリックに落とし込み、寂しく物悲しい物語へと仕上げているのはひとえに耽美ささえ感じさせる華美で煌びやかな装丁と、
設定の勝利といえるでしょう。
作品の性質上、あまり他人には薦め難い作品ではありますがぜひとも続きを出して頂きたい。シャーリーとジョーのそれからが純粋に気になります。
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