2016.11/14 [Mon]
加藤元浩『捕まえたもん勝ち!七夕菊乃の捜査報告書』
![]() | 捕まえたもん勝ち! 七夕菊乃の捜査報告書 (講談社ノベルス) 加藤 元浩 講談社 2016-10-06 売り上げランキング : 6995 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
そう。今回の殺人事件で犯人逮捕の決定的証拠をつかんできたのは千種刑事ですからね。
刑事は犯人を捕まえたものが『勝ち』です
念願叶って捜査一課の刑事に抜擢された七夕菊乃。しかし元アイドルという経歴のせいでお飾り扱いされてしまい、おまけに、驚異的な洞察力を持つ天才心理学者・草辻蓮蔵と、FBI出身で報告書の書き方に異様な執念を燃やす鬼才、「アンコウ」こと深海安公が繰り広げる頭脳戦に巻き込まれることに!初めて挑む密室殺人事件の捜査は、一体どうなってしまうのか!?
学生時代にご当地アイドルとして活動した過去を持ち、キャリアで入庁した突貫娘・キックこと七夕菊乃が持ち前の行動力と観察眼を武器に続発する殺人事件に体当たりで挑んでいく警察ミステリ。
ミステリファンには言わずと知れた『Q.E.D.-証明終了-』の作者である漫画家、加藤元浩の手掛ける初小説にして長編ミステリです。サバサバした性格で運動神経に長けたキックのヒロイン像は『Q.E.D.』の水原可奈を彷彿させるに難くなく、感情の起伏激しくよく動き、ところ狭しと突っ走るキャラクターはまず第一に画として映えることを念頭に置いた漫画家らしい造詣でした。
女子高生時分にキックのその後を決めるきっかけとなった歌人の相続争いを巡る毒殺疑惑に始まり、アパートのトイレにおける大学生の不審死、主婦がマンションのベランダから転落死した現場の主に3つの事件を扱いますが、それぞれに独立した連作短編というスタイルではなく、あくまでもキックの奮闘と成長を描いた長編小説の体で物語が進行します。
本作で最も異彩を放つのが書類刑事の異名をとる深海安公の存在です。現場の捜査以上に刑事の仕事の大半を占めるという報告書は実況見分に供述調書――と、刑事が何かひとつでもアクションを起こす度に微に入り細に穿つ記述が求められ、決められた形式に則った執拗なまでに綿密な書類の提出が義務となります。一見、地味に思えるこの作業にこそ実は大切なことがすべて隠されていると言え、箇条書きでまとめられた“証言”と“事実”、その間にある整合性と矛盾がロジックの議論の場として立ち上がり、最上級に重要な役割を果たすのです。作者曰く、それこそが本書を漫画でなく活字媒体で発表した所以であり、これによって他に類を見ない報告書ミステリと呼び得る個性を確立しています。
主戦場が報告書の上にあることが登場人物に対してさながら叙述トリックのように機能してくる終盤も、本作ならではの活かし方です。
難を申せば全体に意外性に乏しく、多少のミスリードも何のその、セオリー通りの内容がそのまま繰り広げられているためメタ的な観点から展開が読めてしまうのがひたすら残念で、本格ミステリであるからにはもう少し凝った真相が用意されていると嬉しかったです。
スポンサーサイト
Comment
Comment_form