2016.08/29 [Mon]
島田荘司『屋上の道化たち』
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★★★☆☆
まったく自殺する気がないのに、その銀行ビルの屋上に上がった男女は次々と飛びおりて、死んでしまう。いったい、なぜ? 「屋上の呪い」をめぐる、あまりにも不可思議な謎を解き明かせるのは、名探偵・御手洗潔しかいない! 行ってはいけない屋上とは?
「御手洗潔」シリーズ 第32作。
決して自殺するハズのない人間がなぜか立て続けに飛び降りる屋上の怪に御手洗潔が挑む長編ミステリ。
巻末のシリーズ全作紹介に載っている書誌データによると公式的には28作目に当たるようですが、クリーン・ミステリなる人物が謎解き役を務める『切り裂きジャック 百年の孤独』、いまや黒歴史扱いされている本人参加の公式アンソロジー企画『御手洗パロディ・サイト事件』『パロサイ・ホテル』、番外作品である『犬坊里美の冒険』も加えてここは32作としておきたいところです。
道頓堀にあるグリコの大看板をモデルに、時代と共に廃れていったプルコキャラメルの仕掛け看板を作品モチーフに掲げたミステリで、何人もの人間が決まって身投げしてしまうというどう考えても解決できなさそうな現象にまずは心掴まれます。これが周囲の印象から「自殺しなさそう」と語っているわけでなく、死んだ本人が決まって「絶対に自殺しない」と宣言した直後に屋上から落下する徹底ぶりなのです。およそ奇想としか言いようのない現象をダイナミックな荒業で説明付けてしまう真相はまさに驚嘆ものでした。物理トリックなのに心理的要因に依りすぎだったり、現場周辺の見取り図がほしかったり、一度ならず二度も三度もそんなに上手くいくだろうか、と諸々疑問を差し挟む余地は少なくありません。しかし、そんな細かなことはどうでもよくなってしまうほどエネルギッシュなパワフルさに有無を言わさず捻じ伏せられてしまいます。
また、そうした豪快な仕掛けと並行して何をやっても上手くいかない苦行者と称される人物の挿話、事件の数日前に問題の銀行に押し入った赤い服の強盗、痴漢と間違われた挙句に向かいのビルの女子トイレに閉じ込められてしまった青年、最初の被害者が銀行の屋上で出逢った捕まえたトム・クルーズ似の婚約者、さらには捜査の過程で明らかになった突如としてロールスロイスを購入したラーメン屋に仏具店主といったバラバラに見えていたいくつもの物語が一本の線に収斂されていく様も見どころです。この一本線も決して綺麗とは言えない粗く極太なものではあるのですけれど、これだけ散らばったエピソードすべてを拾って、且つ一見攻略不能な命題にしっかりと答えを用意できただけでも充分凄いです。
文字通りバカミスも真っ青なトリックと大味な展開こそ賛否割れそうな代物ながら、主にワットダニット部分が評価されれば本ミスベスト10圏内に入ってきてもまぁ納得の内容です。
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