2016.08/28 [Sun]
海野十三『獏鸚 名探偵帆村荘六の事件簿』
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★★★★☆
精選した傑作を贈る。麻雀倶楽部での競技の最中、はからずも帆村の目前で仕掛けられた毒殺トリックに挑む「麻雀殺人事件」。異様な研究に没頭する夫の殺害を企てた、妻とその愛人に降りかかる悲劇を綴る怪作「俘囚」。密書の断片に記された暗号と、金満家の財産を巡って発生した殺人事件の謎を解く「獏鸚」など、日本SFの先駆者と称され科学知識を駆使した奇想天外なミステリを描いた海野十三が産み出した名探偵・帆村荘六が活躍する推理譚から、精選した傑作を贈る。
「名探偵帆村荘六の事件簿」第1作。
日本におけるSFの始祖のひとりとされる海野十三の手による帆村荘六ものの短編を集めたミステリ傑作選です。収録作は「麻雀殺人事件」「省線電車の射撃手」「ネオン横丁殺人事件」「振動魔」「爬虫館事件」「赤外線男」「点眼器殺人事件」「俘囚」「人間灰」「獏鸚」の全10篇。2001年にちくま文庫から刊行された『海野十三集 三人の双生児』を底本に、帆村荘六が登場するエピソードのみをピックアップしていくつかの短編を加えたものとなっています。
探偵役の帆村荘六は言わずもがな、かのシャーロック・ホームズをもじったネーミングで、日本でも科学知識が徐々に一般に向けて広まりつつある昭和の時代、最先端の科学トリックと荒唐無稽な疑似科学、オカルティックでホラーテイストな怪奇性を融和させ、新しくもおどろおどろしい独特の読み心地が魅力です。
傑作選ということもあってか個々のアベレージが非常に高く、偶然が重なった末に事件が複雑化していく「麻雀殺人事件」や物理トリックを図版入りで解説した上でもうひと捻りを入れた「省線電車の射撃手」、証拠のない状況から犯人の殺人計画を暴き出す一手が鮮やかな「爬虫館事件」、ぶっ飛んだ真相の中に伏線とミスリードが光る「赤外線男」など本格ミステリとしても粒揃いなものばかり。個人的なベストは奇妙な“会社”の侵入不能、出入り不可な隔離領域で出た死人を扱った「点眼器殺人事件」で、事件の謎解きもさることながらシチュエーションの設定が極めて近代ミステリ的であり、「振動魔」や「赤外線男」の騙しの趣向や全身血まみれの証言者というワットダニットの惹きが強い「人間灰」をはじめ、どの作品も歴史的意義を抜きにして現代本格に馴れた読者の目から見ても遜色なく面白い。どころか、2010年代のいまの世に新作のネタとして発表されても何ら違和感がない先進性に恐れ入ります。
今後、オススメのミステリ短編集を訊かれたら第一に挙げたい一冊です。文庫としては少しお高めではありますが、未読の方は迷わず買いでしょう。
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