2016.08/22 [Mon]
井上ほのか『アイドルは名探偵』
アイドルは名探偵 (講談社X文庫―ティーンズハート) 井上 ほのか 瀬口 恵子 講談社 1988-04 売り上げランキング : 1061342 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
そうして、彼はスタジオを出ていったのだ。それが、わたしが彼を見た最後だった。
……なんて書くと、キマッテいていいけど、真っ赤なウソになる。
実際、危険だったのは、むしろ、わたしのほうだったのです。
私、八手真名子、14歳。アイドルやってます! ナマイキッとか、ワガママッとか、いわれてるけど、いいじゃない。おシゴト楽しいし、人気だってスゴイんだもの。こんどだって大作映画に出演することになって、ハリきってたら、主役争いがもとで、候補の1人、竹崎サンが殺されちゃった! 真名子のとこにも脅迫状が……。ドッキーン!こうなったら、ナマイキボーイの克樹を付き人兼探偵助手にして、犯人探し始めちゃおーか!
「アイドルは名探偵」第1作。
80~90年代に掛けて講談社X文庫ティーンズハートにて刊行されたミステリものの少女小説シリーズです。いまやまったくその名を聞くことはなく、知る人ぞ知るといったポジションにありますが、当時は島田荘司の推薦を受けるなどライトノベルミステリの書き手として外せない存在だそうので読んでみました。
デビュー作でもある今作は、大作映画に出演予定のまま事故死した大物俳優の代役としてオーディションを受ける3人の若手俳優が次々に命を狙われ、共演者各位にも怪文書が届けられるといういわゆる撮影所モノのミステリです。いまをときめくわがまま中学生アイドル・真名子が控えた映画好きで馴れ馴れしい大型新人・克樹をやれムカツク、やれ生意気だと宣いつつも一緒になってドタバタ劇を繰り広げるストーリーは王道かつ正統派ともいうべき「ザ・昭和の少女漫画」であり、『ときめきトゥナイト』あたりのノリとでも言うのでしょうか。
“とんでもはっぷん”なる単語が出てくるあらすじや真名子の語り、やたらトレンディな香りのするあらすじはいまの時代に読むにはやや古めかしくあるにせよ、その骨子はなかなかどうして本格のツボを押さえています。
テストカメラによる衆人環視下における殺人トリックはありがちといえばありがちですが、撮影所という特異な場を活かした上でトリック成立のための舞台立てを周到に整え、突っ込みの入るであろう綱渡りな犯行の杜撰さをしっかり潰してくるところに作者のポテンシャルが窺えます。第二の現場に残されたダイイングメッセージも単純が故の解答がむしろ納得度合いを高めているのが良し。
それ以上に見どころなのが作中、真名子たちが退屈紛れに披露するクイズゲームです。ちょっとしたルールを設けてお遊びで行われるこのクイズの“正解”が予想だにしない方向から突き付けられる裏を掻くような代物で、大いに驚かされると同時にそのコンゲーム的なケレンに感嘆致しました。
良くも悪くも80年代だからこそ書けた/読めた部分も大きい作品なので復刊は難しそうですけれど、埋もれさせるには惜しいシリーズなので引き続き読んでいこうと思います。
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