2016.08/17 [Wed]
似鳥鶏『レジまでの推理 本屋さんの名探偵』
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★★★☆☆
荷ほどき、付録組み、棚作り、ポップ描きにもちろんレジ。お客さまの目当ての本を探したら、返本作業に会計、バイトのシフト。万引き犯に目を光らせて、近刊のゲラを読んで、サイン会の手配をして…、書店員って、いったいいつ寝るの? 力仕事でアイディア仕事で客商売。書店員は日夜てんてこ舞い。しかも、彼らは探偵という特殊業務まで楽しげにこなしてしまうのです。渇いた現代社会の知のオアシス、本屋さんにようこそ!
街の本屋さんを舞台に学生アルバイトの主人公と共に働く仲間たちが様々な事件に遭遇する連作ミステリ。昨今流行りのお仕事小説の中でも一ジャンルとし定着しつつある書店業界――書店員の日常を似鳥鶏ならではのユーモアセンスでコミカルに包み込み、ミステリとしての謎解きも両立させた作品で、顧客の視点からは本屋で見掛けるアレコレは実はこうなっているんだ!という楽屋公開的好奇心をかき立てると同時に、書店員経験者にとっては思わず頷いてしまうあるあるネタに心をくすぐられます。
収録された4本のうち前半2篇はまさにその真骨頂。書店員だからこその視点が物言う真相です。普通、こういったジャンル特化型のミステリでは専門知識を謎解きに要するのはフェエアプレイの精神から歓迎されないきらいがありますが、本作の場合は読み手側が少なからず本好きである程度の数をこなしていることを前提に、その経験値を試すつくりとなっており、本を読むことのみならず商品知識としていかに「本」という媒体を知り尽くしているかが問われる“正解”は答えられた人間には誇らしく、わからなかった人間には普段接しているのに気付けなかった事実に悔しがること請け合いで、そうしたウィークポイントをむしろ作品の強みにすら変えています。
故に、専門性がやや薄れ、謎解き参加へのハードルが下がってより万人に門戸の開かれた第3話、第4話が書店ミステリの書店ミステリたる意義において前半2篇に一歩譲る逆転現象に陥ってしまっているのは皮肉と言うべきか。最終エピソードとなる第4話も練られているのは重々理解できるも、そうした理由からいまひとつノり切れませんでした。
ただ書店の賑やかな日常を描くだけに留まらず、インターネット書店の台頭による現在の業界を巡る情勢の変化も真正面から取り上げて主題とし、それでも暗いばかりじゃいられないリアル書店の温かみに希望を覗かせる〆も爽やかです。
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