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映画『シン・ゴジラ』

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★★★★★
東京湾アクアトンネルが崩落する事故が発生。首相官邸での緊急会議で内閣官房副長官・矢口蘭堂が、海中に潜む謎の生物が事故を起こした可能性を指摘する。その後、海上に巨大不明生物が出現。さらには鎌倉に上陸し、街を破壊しながら突進していく。政府の緊急対策本部は自衛隊に対し防衛出動命令を下し、“ゴジラ”と名付けられた巨大不明生物に立ち向かうが……。 (2016年 日本)


「ゴジラ」シリーズ通算第31作。
 “ギャレゴジ”こと前作ハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』から2年、国産「ゴジラ」としては2004年の『ゴジラ FINAL WARS』よりなんと12年ぶりとなる待望の新作が先週、公開されました。
 総監督・脚本は庵野秀明、監督・特技監督に樋口真嗣を迎え、特撮に知悉した最強タッグの手による今作はゴジラを一種の災害と位置づけ、日本人が一丸となって未曾有の危機に立ち向かう疑似ドキュメンタリー風のシミュレーション映画に仕上げた異色作。
 そのため政府中枢に詰める総理、大臣、議員、官僚らの動きが大きくクローズアップされ、どこを切っても会議!会議!会議! 突如として日本を襲った巨大不明生物という緊急事態の対応に追われる彼らの姿が極めて現実的に、確かなリアリティを伴って描かれます。
 開始から息つく暇もなくノンストップで突っ走り続ける政治劇、専門用語、早口の応酬が繰り広げられますが、これがまったく不安要素になりません。テンポの良さと抜群の編集力によって異様なほど面白く、緊迫感がひしひしと伝わってまったくもって飽きさせない。もしも実際にゴジラのような怪獣が出現したら?という誰もが一度は考えた妄想が、3.11でわれわれが身をもって体感した出来事に重なってまさに目の前で展開されるのです。
 一部の特撮ファンを除けば一昨年のハリウッド版含め「ゴジラ」=怪獣対決のイメージが定着している中、敵怪獣を用意せず、従来の「ゴジラ」映画とはまるで異なるアプローチの作劇はかなりリスキーであり、チャレンジャーであったと思いますが、よくぞ作ってくれました。これぞ、未だかつて誰も見たことがない怪獣特撮といえるでしょう。

(以下、ネタバレあり)

 それを可能せしめたのが過去作との互換を一切断ち切った本作の設定です。従来の「ゴジラ」ではほぼすべての作品において1954年の初代『ゴジラ』の物語を引き継ぐ形で制作されてきましたが、今回は敢えてそれに倣わず、ゴジラの存在が確認されたこのないまったく新規の世界観を採用しています。
 その最大の効果が本作最大のトピックであるゴジラの進化=形態変化でしょう。かつての「ゴジラ」作品を振り返るとベビーゴジラやバーニングゴジラ、ゴジラザウルスの突然変異といった例もないではないにせよ、作中でモスラのように状況に応じて明確に姿を変化させ、まったく別のフォルムに変態するという事例は見られなかったハズです。
 特に東京上陸時の、生物としての意思を汲み取れない狂ったようなギョロ目にエラからは血液(?)をドバドバ零し、前肢もなくひたすら這いずり迫る第二形態はキモいやグロいを通り越して生理的な嫌悪感を催すレベルであり、そのインパクトを絶大です。続く第三形態もそこそこゴジラらしい立ち姿になったとはいえ、やはりその気持ち悪さは変わりません。
 それでいてメインビジュアルにある第四形態では『~の逆襲』以降のどのゴジラよりも初代ゴジラを継承した顔つきをしているのです。勿論、第四形態は第四形態でとても正常な生物とは思えぬ乱杭歯、異様に細い腕、全身の焼け爛れたような赤い肉という初代ゴジラ以上にグロテスクではあるのですけれど、ゴジラが核の申し子として生み出されたことを考えれば納得のアレンジです。
 ここまで従来のゴジラ像を破壊しつつ、過去のどのゴジラよりゴジラらしい――。ゴジラほどのキャラクターにここまで変革を加えるとなれば本来、相当なバッシングが起きそうなものを破壊と創造、原点へのリスペクトを同時にやってのけてしまったのだからこれはもううるさ方のファンも黙らざるを得ないというものです。

 もうひとつサプライズとなるのが第四形態進化後のゴジラによる東京蹂躙のシーンと米軍の攻撃に咆哮を上げた後に放つ放射火炎でしょう。放射火炎(自分の世代的には熱線ではなく火炎なのです)といえばゴジラの必殺技にして代名詞でもあり、観客もどのタイミングで吐き出すのか今か今かと待ちわびていました。それがまさか、あそこまでの地獄絵図を生み出そうとは。
 『ギャレゴジ』を彷彿させる姿勢から繰り出された熱線が徐々に火力を調節し、レーザー光線のように色を変えたかと思ったら、その火力に息を飲む間もなく背ビレから紫の光が縦横に飛び出し遥か上空を飛んでいた米軍機を撃墜する。こんなゴジラはいままで見たことがありません。
 それでいて空襲を思わせる足音と火の海と化した東京に佇むその姿はまさしく『初ゴジ』のリファインであり、この手のオマージュにありがちな構図が同じ等々のマニア的でクドいこだわりに依らず、感覚的に54年版を思い起こさせてくれるのです。レクイエムともいえるBGMと共に夜の東京に邪悪な光を灯すシン・ゴジラの姿は終末を予感させるほど悪魔的でありながら荘厳かつ美しく、今後10年、20年経っても日本特撮を語る上で間違いなく外せない名場面です。

 着ぐるみではなく初のフルCG+モーションキャプチャーで描かれているのも革新的でした。技術ではハリウッドに劣る面もあるかもしれませんが、着ぐるみではどうしても難しかった尻尾を駆使した動き、時にギニョールにすら見えるCG処理はやはり感心出来であり、伝統的に着ぐるみを用いてきた日本の巨大特撮怪獣映画としても過去に類を見ないレベルです。
 期せずして「ガメラ」や「ウルトラマン」でも同様のプロジェクトが動いている気配があり、それぞれ数分間の映像で特撮ファンを沸かせたのは記憶に新しいところながら、仮にそれらが今後正式な長編作品として形になるとして、この『シン・ゴジラ』観る前と後とではまったくその印象が変わってくるハズです。それだけ凄い。
 数年前に『パシフィック・リム』が特撮業界の黒船として塗り替えた歴史を、再び刷新したといっても何らオーバーではない傑作中の大傑作でした。

 ドラマパートも熱いです。民間人の主人公を立てず、舞台の中心をゴジラ出現の対応に奔走する政府内に絞ったことでロマンス要素や賑やかしを一切排し、ただただひたすらに予期せぬ災禍に見舞われた日本を何とかしようと立ち向かう人々の姿を描く。登場人物が善人しかいない、所詮は理想論と言われれば否定はできない。けれど、そんな理想論が違和感にならないほどに誰もがいま自分のできることに真摯に取り組み、せいいっぱいの全力をもって目の前の障害に立ち向かうのです。
 ヘタレて見えたり、過信しているような人物にも必ず見せ場があるといって良い。中でも大杉蓮演じる総理大臣が退場した後に代理総理を務める里見農水大臣の役回りは象徴的で、これぞハリウッド映画とは異なる、日本人の日本人らしいカッコ良さかもしれません。
 初め300人超の俳優陣と聞いた際にはどうなることかと思ったものですが、なるほどこの映画にはそれだけのキャストが必要です。むしろ名の知れた俳優を端役に配することで、ひとりひとりの人物に時間を割けないが故のキャラクターの覚え難さをことをカバーしていたとも考えられ、見事な戦略でした。
 そうして描かれたドラマがすべて集約されたヤシオリ作戦はこれまた日本特撮史にその名を刻む名シーンであり、人智を超えた完全生物であるゴジラを日本人の知恵と技術と経験を結集させて全力で倒しに掛かるクライマックスはその映像も含め圧巻のひと言です。ニッポン対ゴジラのキャッチコピーに偽りなし。
 そこで電車、ここでビル――と文字通り雪崩のように仕掛ける総攻撃にはアドレナリンが出まくって興奮の坩堝でした。作戦開始の合図に「宇宙大戦争マーチ」を持ってこられてアガらないわけがない!
 過去作との互換を切った作風だけにてっきり新規BGMオンリーでいくとばかり思っていただけに、ゴジラ完全体の再上陸にお馴染みのテーマが流れるのも販促級に心憎い。全体に過去BGMの使い方が神懸っていました。

 『ゴジラ FINAL WARS』から12年、2度目のハリウッド映画化を経て見つめ直された「ゴジラ」像に東日本大震災という空白期間中最大の関心事を取り込んで、それでも困難にめげず前を向いて立ち上がる日本人の逞しさを描き切った、嘘偽り誇張なく歴史に残る大傑作でした。


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はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

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