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300冊の積読本もなんのその、本や映画の感想などをつらつらと述べてみたり。

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清水杜氏彦『うそつき、うそつき』

うそつき、うそつきうそつき、うそつき
清水 杜氏彦

早川書房 2015-11-20
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★★★☆☆
国民管理のために首輪型嘘発見器の着用が義務付けられた世界。非合法の首輪除去技術を持つ少年フラノは、強盗犯、痣のある少女、詐欺師、不倫妻、非情な医者、優しすぎる継母など、様々な事情を抱えた人々の依頼を請けて日銭を稼いでいた。だが彼には密かな目的があった。ある人のために特殊な首輪を探しだして、外すこと。首輪には複数のタイプがあり、中でも、フラノに技術を仕込んだ師匠ですら除去法を教えられず、存在自体ほとんど確認されていない難攻不落の型こそ、フラノが探す首輪・レンゾレンゾだった。レンゾレンゾを求めることがやがてフラノを窮地へ追いやり、さらには首輪に隠された秘密へと導いてゆく。人はなぜ嘘をつき、また真実を求めるのか。フラノが辿り着いた衝撃の結末とは?


 第5回アガサ・クリスティー賞受賞作。 国民すべてに嘘発見器の機能を有した首輪が付けられるようなった近未来、様々な事情をもつ人々からの非合法な首輪除去行為を生業に生きる少年を描いたディストピアSFです。
 精度や外しやすさに差のある複数社の首輪が混在する中、かつて首輪除去中のミスで親友を死なせてしまって以来無為に生きる18歳のフラノが、都市伝説紛いに語られる第五の首輪・レンゾレンゾを追い求めるA面と、首輪除去者としての道を歩みだしたばかりの2年前の日々が綴られるB面が交互に語られる構成で、亡き親友の妹にして想い人を救うためセカイを揺るがす真実へと迫り、やがて自らの命も狙われるようになるサスペンスフルな物語となっています。

 本人が自覚的に嘘を吐くと赤色のランプが点灯するという特異な世界観、特定のフレーズのみに反応しランプを光らせるダミー首輪、章毎に現在と過去が交錯するスタイルと聞くとミステリファンは少なからず心踊らされるものがあり、それらの素材をどう料理してみせるかに期待することでしょう。しかしながら本作では悪い意味で予想を裏切り、そうしたミステリとしての旨味になりそうな部分をすべてスルーしてきます。ミステリ読者が何か潜んでいるだろうだろうと疑って掛かる箇所が、1ミリたりとも謎解きに関わってこないのです。唯一、それらしいのはピッピの首輪にまつわるやりとりくらいのものでした。
 そうかといってそれらの要素がまるで無駄であるかといえば決してそんなことはなく、“装着者の嘘を検知する首輪”という根幹設定はクライマックスにおいて劇的で絶大な役割を果たします。つまり、謎解きに活かすための設定というミステリ的なアプローチではなく、ドラマ性を重視するが故に敷かれたSF的方法論に基づき書かれた作品なのです。
 小説としては問題ありません。むしろ読み応えもあり、新人賞を獲るだけの実力を備えた作者でしょう。ただ、仮にもアガサ・クリスティーの名前を冠するミステリ系の新人賞受賞作としてはジャンルエラーとして弾くor賞とは無関係の拾い上げという形で大々的にSF作品として売り込むべきでした。
 “ディストピア青春ミステリ”なる売り文句は嗜好の食い違いを生みやすく、作者にとっても読者にとっても損にしかならないと思います。


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はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

当ブログはリンクフリーです。
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2012年に読んだ小説の        ベスト5はこれ!!

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1.トリプルプレイ助悪郎(2007年刊)   2.名探偵に薔薇を(1998年刊)             3.化物語(2006年刊)          4.時砂の王(2007年刊)                  5.天帝の愛でたまう孤島(2007年)

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