2016.07/19 [Tue]
カミ『ルーフォック・オルメスの冒険』
![]() | ルーフォック・オルメスの冒険 (創元推理文庫) カミ 高野 優 東京創元社 2016-05-30 売り上げランキング : 21771 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★★☆
名探偵ルーフォック・オルメス氏。オルメスとはホームズのフランス風の読み方。シャーロックならぬルーフォックは「ちょっといかれた」を意味する。首つり自殺をして死体がぶらさがっているのに、別の場所で生きている男の謎、寝ている間に自分の骸骨を盗まれたと訴える男の謎等、氏のもとに持ち込まれるのは驚くべき謎ばかり。
『機械探偵クリク・ロボット』でもお馴染みのフランスのユ-モア作家、カミの手による「シャーロック・ホームズ」のパロディ作品です。本国での出版が1920年代、完訳版の刊行は70年以上ぶりだというからその希少さが窺い知れます。古書店で高額な値が付けられてなお入手の難しい作品を、こうして安価な文庫本で提供してくれるのには有り難さしかありません。
本作はいわゆる小説ではなく全36篇から成る戯曲形式をとっていて、それぞれが10ページ前後のショートショート。独立した事件が展開される第1部「ルーフォック・オルメス、向かうところ敵なし」と、オルメスのライバルで稀代の脱獄犯・怪盗スペクトラとの攻防を描く連作ものの第2部「ルーフォック・オルメス、怪盗スペクトラと闘う」の大きく2部に分かれています。
最高の頭脳を持つ名探偵オルメスが快刀乱麻に解決していく事件の数々はどれも常人の理解を逸したトンデモない発想に満ちており、言葉遊びとナンセンスなギャグに溢れた(挙句、訳者までもが注釈で突っ込みを入れる始末)あまりにシュールであまりにくだらないものばかりであるため、肩肘張らずに“そういうもの”として楽しむのが正しい読み方でしょう。
そうかと思えばたった数ページで終わってしまう短々編の中にときたま目を見張るような謎解きが潜んでいるのも見どころで、夢遊病者に催眠を掛けて泥棒を働かせる「催眠術比べ」は催眠術の効用を予め示した上で華麗に切り返してみせる様がまさしく特殊設定ミステリのそれであり、続く「白い壁に残された赤い大きな手」はキャッチーで奇想性ある謎とぶっ飛んだ物理トリックに魅せられます。後半の「シカゴの怪事件――鳴らない鐘とおしゃべりな卵」の伏線芸、前の話で触れられた設定を抜け目なく再利用してくるなど、しょうもないと笑いつつもショートショートで使ってしまうには勿体ないくらいのネタが込められているのです。
これらの本格としてのネタの無意味な消費っぷりを見るに、案外『六とん』の源流はこのあたりにあるんじゃないかなあとも感じるのでした。
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