2016.06/26 [Sun]
グレッグ・ルッカ『スター・ウォーズ フォースの覚醒前夜 ~ポー・レイ・フィン~』
![]() | STAR WARS フォースの覚醒前夜 ~ポー・レイ・フィン~ (講談社KK文庫) グレッグ・ルーカ フィル・ノト 西 浩二 講談社 2016-01-29 売り上げランキング : 86093 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
ポー、レイとフィンが手を取り合って悪の勢力に立ち向かうまでは、それぞれ違う世界で生きていた……。ポーは、新共和国の敏腕パイロット。レイは、なにもない砂漠の惑星ジャクーの、ひとりぼっちのゴミあさり。フィンはまだフィンではなく、優秀と目されるも悩みを抱える、ストームトルーパーの卵、FN‐2187。これは、『フォースの覚醒』が始まるまえの、三人の物語。
「スター・ウォーズ」続三部作の始まりを告げる『EP7』こと『スター・ウォーズ フォースの覚醒』で主要キャラクターを務めたポー・ダメロン、レイ、フィンの3人にそれぞれスポットを当てたオムニバス短編集です。本国での発売から間もなくの邦訳版リリース、それも従来の体制であれば確実にスルーされていただろうジュニア向けの副読本を日本語で楽しめるというのは何気ないようでいて実はとてつもなく凄いことだというのは多くのスピンオフファンが実感していることでしょう。
どのお話も映画本編の説明足らずで描写不足な面を補うのに大きく貢献しており、本書に目を通しているのといないのとではその理解度と楽しさも大きく変わってくるため、必読といっても決して過言ではありません。
ポー編では新共和国のパイロットであったポー・ダメロンがどういった経緯でレジスタンスに加入することになったのかが語られると同時に、レイア以下レジスタンスと新共和国を巡る微妙な関係、辺境にて力を増すファースト・オーダーの台頭が描かれます。天才的なパイロットセンスで任務を成功に導くも、波風を立てたくない新共和国によるファースト・オーダーの黙認と理不尽な懲戒。そこに現れるレイア将軍――というポーを軸にした物語でありつつも根底に政治問題が覗くあたりが「スター・ウォーズ」スピンオフらしいです。
意外だったのは収録されている3作の時系列が具体的にいつ頃なのかは明記されていませんが、ポーのレジスタンス移籍が想像していたよりずっと直近だったことで、両親と面識のあるレイアともほぼ初対面同然だという事実です。エンドア後に任務を共にした経験もあるのでポーの両親とは親交が続いていたものだと思っていたのですけれど、そうではなかったんですね。冒頭ではそのあたりに絡んで母親であるシャラ・ベイの引退後の行く末も簡潔に記されているためアメコミ『砕かれた帝国』から読むことで、よりスムーズな流れで入ることができました。
続くレイ編は、荒涼としたジャクーでスカベンジャーとしてひとり生き抜くレイの孤独をクローズアップしたビターな物語。いつか迎えに来る両親を信じ待ち続けるレイと彼女の幸福、そして喪失を描き切ったストーリーは本編とさほど関わらないながらも収録された3篇の中では最も読み応えがありました。この出来事は『レイのサバイバル日記』でも少し言及されており、細かなリンクと目配りが嬉しいです。
最終章はファースト・オーダーのトルーパー訓練生として仲間と研鑚を重ねるFN‐2187ことフィンが主役のエピソードで、優秀なトルーパー候補である反面、友情に篤くチームメイトを見捨てて非常になり切れないフィンのファースト・オーダーへの違和感が綴られ、『EP7』でなぜフィンがポーを助けるに至ったのかを補強する話でもあります。キャプテン・ファズマの活躍が見られるのは『フォースの覚醒前夜』だけ!とはさすがに言いすぎですが、リーダーとしてのキャプテン・ファズマの人となりや映画冒頭でフィンに看取られ息を引き取ったトルーパー“ゼロズ”、タコダナの地上戦でフィンと衝突し“TR-8R”の愛称で一躍話題を集めたトンファートルーパー“ナインズ”との関係性が掘り下げられ、本編にぐっと深みと面白味が増すハズです。
一般向けスピンオフほど肩ひじ張らずに読めるショートストーリーであり、映画がより楽しくなる1冊でもあるので「スピンオフに興味はあるけれどどれから手をつければ良いのかわからない」「SWを小説でも読んでみたいけど理解できるか不安」というビギナーの方々には打ってつけの作品です。本編補完と雰囲気掴みにここからトライしてみては如何でしょうか?
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