2016.06/24 [Fri]
山本弘『怪奇探偵リジー&クリスタル』
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★★★☆☆
第二次大戦前の1938年。ロサンゼルスに事務所を構える、女性私立探偵エリザベス・コルト(通称:リジー)と、助手の少女クリスタルのコンビが、街を震撼させる奇怪で残忍な事件に、特殊な身体と知性を駆使し、勇敢に立ち向かう。パルプマガジンの表紙絵にそっくりな惨殺死体、幻の特撮映画上映中に消えた人々、甦る中世イギリスの錬金術師の魔法、謎めいたタイムトラベラー、異空間から紛れ込んできた凶獣の暴走……。型破りな謎と解決法が痛快で楽しい5篇を収録。
1930年代のアメリカ、ロサンゼルスを舞台にグラマーな美人探偵リジーと特殊な事情を抱えた助手のクリスタルが数々の怪事件に巻き込まれる連作SFミステリです。メフィストに連載を持ち、本格ミステリ大賞のノミネート経験もある作者ですが、今作で発生する奇々怪々な事件の裏に潜む真相は基本的に常軌を逸した超常のモノの仕業であり、知力より腕力で強引に解決していくリジーのスタイルは冒険小説的な作風で、本格方面に期待してしまうと些か肩透かしかもしれません。
むしろアメコミ調の表紙絵にペーパーバックという凝りに凝った装丁からもわかるように、古き良き時代のアメリカサブカルチャーにリスペクトを捧げた作品となっており、怪奇映画や海外特撮、SF小説といったジャンルに明るい作者本来の読者層こそが最も楽しめる内容といえるでしょう。
ミステリ読者の観点からは「二千七百秒の牢獄」が突出していました。未完成のままで放置された呪われた映画フィルムに閉じ込められ、延々と同じシーンを繰り返すことを強いられている状況で、外部の人間が如何にしてその呪いを解き、映画の世界から人々を解放するのかが焦点となっていて、特殊設定ミステリとしては勿論、実際の映画史までをも取り込んだ解決策には歴史ミステリの趣も感じられ、それらがまたサイエンスフィクションたる面白味にも繋がっていきます。
ただしそうしたネタの数々がクサすぎるきらいがあるのも事実で、時間旅行を扱った「軽はずみな旅行者」の登場人物など、いかにも「これをこう出しておけばおまえら喜ぶんだろ?」という暗黙の了解の下に書き手も読み手も踊っているふうでもあります。このあまりに内向きで意図的な“狙った”演出をすべてわかった上で楽しむのは恐らく『映画秘宝』あたりのノリに近しく、決して万人向けではないなあ、とも思うのでした。
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