2009.12/06 [Sun]
円居挽『丸太町ルヴォワール』
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★★★★★
どれだけどんでん返しするんだよ!馬鹿じゃねえの!
祖父殺しの嫌疑をかけられてしまった青年、城坂論語は変幻自在の論客が丁々発止の応酬を繰り広げる私的裁判“双龍会”の被告となる……。容疑を解くためではなく、事件当日、屋敷の一室で二人きりの甘く濃密な時間を過ごした謎の女性“ルージュ”と再会する、ただそれだけのために……。
ええぃ 持ってけ、泥棒っ! 星5つ!!
――というわけで、小説では『スター・ウォーズ フォース・アンリーシュド』に続いて、今年2作目の★×5です。
もうね、本当にどんでん返しに次ぐどんでん返しで息も吐かせない。もう返せるどんでんはゼロよっ!
キャラクター良し、設定良し、話運びに文章力、加えて言葉選びのセンスも良し。何より素晴らしいのがこの作品がミステリのみならず、一編の素敵な恋愛小説としてもかなりの逸品であるということ。表紙や挿絵もよく雰囲気が出ていますし(よくぞキャラっぽさに走らなかった!)銀箱の中の本の装丁も、従来の講談社BOXのものは手抜きっぽくて好きになれませんでしたが、今回は一線を画す美しさ。文字の大きさまで自分好みでした。というかあのくらいの大きさがいちばん読みやすいと思うのですが……。
ミステリとしてはそこまで複雑な事件ではないんです。なんせ、携帯電話の着信電波による心臓ペースメーカーの不具合→被害者死亡ですから。むしろ今更そんな使い古されたような――その上、あまりにも捻りのない――犯行手段のミステリを書くこと自体珍しいかもしれません。
そこで生きてくるのが“双龍会”の設定。本作においては事件なんて、あってないようなもの。見所は京の都に根付く独自のイベント型私的裁判――という名の弁論大会“双龍会”で繰り広げられる仮定、論証、突き崩し。なまじ本物の裁判でないだけに、イカサマだとわかっている論証でも辻褄さえあっていれば、尻尾さえ出さなければ、オーケー的な感じで一種のコンゲームの様を呈しています。弁護士にあたる青龍師と検事にあたる黄龍師によって展開される戦略と知略を賭した弁論対決はまさしく丁々発止。ひとつの可能性を示してはああ潰し、別の証拠をそう封じる。そのやりとりには手に汗握るものがあります。
以前にミステリの書き方か何かの本で「ミステリの極意はいかにして“その解決”を真実に見せるか」であり、それこそが肝、というような文章を目にしたことがありましたが、この作品はある意味その実践型といえるかと思います。
実際に法廷に挙げられている自分に不利な証拠を、尤もらしいつくり話をでっち上げ“いかにも”な話にして観客の心証を操作、味方につける、と。要は、それが真相だと思わせた者勝ちという、なんとも不条理かつ真理なルールです。
(以下、ネタバレ)
まぁしかし、この作品の素晴らしいところはどんでん返しですよね。思わず「えええぇっ!」と唸る展開になったかと思うと、次にはそれが龍師の論破によって突き崩されたりして。
しかもこういった“どんでん返し”系の作品は、普通は1回返して終わり――というかそこがメインであり最大の魅せどころなので――ですが、叙述トリックが「何段構えだよww」というくらいに用意されているのが驚くべきところ。はいはい、流さんにはまんまと騙されましたよ。さらに大和にも、その後にも……なんという模範生徒。作中人物でさえ「馬鹿じゃねえの!」なんだから、それ以上にどんでんを仕掛けられてるこっちはもうどう言って良いものか……。
やっぱり最大限の尊敬の念を込めて「馬鹿じゃねえの!」でしょうか。
最後にもうひとつ。
実は円居さん、叙述トリックを仕掛ける上でかなり巧い文章を書いています。気付いたでしょうか?
終盤も終盤、撫子と落花の入れ替わりの部分ですが、
撫子に変装した落花:「ありがとうございます」
地の文 : そこで、長いこと沈黙を守っていた撫子がようやく口を開いた。
落花に変装した撫子:「なあなあ、みっちゃん、ウチも誉めてえな」
ここで読者は「ありがとうございます」が“長いこと沈黙を守っていた撫子”のセリフかと思い、さもようやく口を開いた撫子がお礼を言っているシーンのように見せていますが、実際には地の文が掛かっていたのはその次の「なあなあ、みっちゃん、ウチも誉めてえな」なんですよね。撫子がようやく口を開いて言ったセリフが「なあなな、みっちゃん~」なわけです。
地の文で嘘を吐かないというルールを守った上でのこの作為的演出ですから舌を巻きます。
これでデビュー作というんだから恐れ入る。
そんなわけで、円居さんの次回作に乞うご期待!
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