2015.09/04 [Fri]
西尾維新『掟上今日子の挑戦状』
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★★★☆☆
鯨井留可がアリバイ工作のために声をかけた白髪の美女は最悪にも、眠るたびに記憶を失ってしまう忘却探偵・掟上今日子だった……。完璧なアリバイ、衆人環視の密室、死者からの暗号。不可解な三つの殺人事件に、今日子さんが挑戦する!
「忘却探偵」シリーズ 第3作。
眠る度に記憶がリセットされてしまう白髪の探偵、掟上今日子の活躍を描く連作ミステリの最新作。10月からは新垣結衣主演での連続ドラマ化も決まっており、本年中にもあと2冊の刊行が予定されているようです。
本巻に収録されている3本はどれも『メフィスト』に掲載されていたこともあり、各篇ごとにアリバイ、密室、ダイイングメッセージと明確なテーマを打ち出して、既刊に比べるとより本格ミステリを意識したものになっています。そのぶん今回は大幅に物語性がスポイルされていたりするのですけれど、こうして1作毎に作風をリセットできるのも忘却探偵の利点かもしれません。
事件そのものは極めてシンプルで訴求力には欠けますが、キャラクターの魅力で読者を牽引してくれます。現場の状況からアリバイ工作やダイイングメッセージの在り方について一度論じた上で、どの短編でも逆転の発想ともいえるひと捻りを効かせてくるあたりが実に作者らしく、ともすればシニカルと取られ兼ねないその姿勢を面白いと思えるか、どっちらけと感じるかで作品全体の評価も変わってくるでしょう。
個人的なベストは衆人環視の状況を逆手に密室を成立させてみせる「掟上今日子の密室講義」で、21世紀――もっといえば2010年代における密室ミステリの最新型として強く記憶されて良いトリックです。
今日子さんの自らを省みない“探偵であること” “謎を解くこと”への薄ら寒くなるほどの執念も垣間見え、その天才性故に人間を超えてバケモノになってしまうというテーマ選択も相変わらずの西尾維新でした。
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