2015.08/28 [Fri]
早坂吝『虹の歯ブラシ 上木らいち発散』
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★★★★★
上木らいちは様々な客と援交している高校生で、名探偵でもある。殺人現場に残された12枚の遺体のカラーコピー、密室内で腕を切断され殺された教祖、隣人のストーカーによる盲点をつく手口―数々の難事件を自由奔放に解決するらいち。その驚くべき秘密が明かされる時、本格ミステリはまた新たな扉を開く!
「上木らいち」シリーズ 第2作。
援交女子高生、上木らいちが八面六臂の活躍をみせる連作ミステリ。『○○○○○○○○殺人事件』で第50回メフィスト賞を受賞し、そのあまりのくだらなさと相反するミステリクオリティの高さで衝撃をもたらした作者のデビュー2作目です。一応は前作の続編ではありますが、内容的には一切の繋がりを持たない連作短編集となっています。
作品を彩るエロと下ネタは今作においても健在で、腋毛やら教祖様のご寵愛やら多岐に渡ったバリエーションにはよくもまあここまで様々なシチュエーションを考え付けるものだと、その男子中学生じみたリビドーに満ち満ちた精神には執念すら感じられ、苦笑や呆れを通り越してもはや敬服の域です。
無論、それだけには終わりません。前作同様、そうした下ネタ要素が尽く謎解き部分に奉仕しており、いずれも精緻なロジックの中に活かされているです。
虹を構成する7つの色がタイトルに冠された各章は、十数ページの短々編からがっつり50ページ以上を費やしたものまで各話の長さにバラつきが見られ、思いついたものを取り敢えず詰め込んだごった煮状態になっているのではとの危惧を覚えるも、それぞれの事件に主題となった色を上手く落とし込み、且つ一定のオチを付けることに成功しています。
特に、それなりに紙幅の割かれた「紫」と「青」がやはり面白く、後者の残されたマニキュアによる論理パズルの如き消去法には惚れ惚れさせられました。不可解な状況にバカバカしくもキレのある解答で一刀両断してみせる「藍」も、短いながらに秀逸です。
しかしながら、それ以上に本作を傑作たらしめているのは連作短編集としての在り方です。ある程度ミステリ馴れている読者にとって、連作短編形式とくれば最後の最後に何かしらの仕掛けやこれまでの話をひとつにまとめ上げる要素が待っていることを想定するのはむしろ当然で、今作もまた各章にこれみよがしな太字で“大きな伏線”が挑戦的に仄めかされてきます。
そうはいってもこれがただ伏線として回収されるだけならば、凡百の連作ミステリと何ら変わりがないわけで。本作ではインターバルとなる「橙」を挟み、怒涛の最終話を迎えることになるのです。そこで披露されるのは多重解決であり、連作短編の結末を多重解決で〆る手法からして既に斬新ですが、本作ではそのさらに上を行き、作品のテーマとして掲げられている“虹”の持つ文化的特性に照らすことで自在に解答をオン/オフし、すべての推理を同時並列的に正解せしめているのです。
それはさながら七色のミステリとでも呼ぶべき代物で、各事件が章タイトルとなる色に対応するミクロ視点と全体を通じた真相が虹色に変化するというマクロ視点――ふたつの視点から作品テーマに結実しているのです。これを凄まじいと言わずに何と言えましょう。
最終章で披露される解決の中にはトンデモなネタであったり、SFすぎる解答も確かにあるでしょう。けれど、その手のジャンルを思い浮かべてみればたとえばスカヨハがヌードを披露する某映画だったり、日曜洋画劇場でたまにやっているパチモンに『X』やら『XX』やら付きまくる洋画だったりと枚挙に暇がなく、そうした外部要因を勘案すると小説として必ずしもあり得ない発想ではなく、むしろ全然アリとさえ思えてくる。ミステリとして何ら瑕疵ではないのです。
ややひとつの手法に頼りすぎなきらいはあるけれど、それにしたってこれは凄い。今年度のミステリでは現状トップ、本ミス1位争いも間違いなしの傑作です。
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