2015.08/23 [Sun]
高田崇史『七夕の雨闇 -毒草師-』
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★★★☆☆
織女と牽牛は決して会ってはならぬ……。七夕はおそろしく陰湿な祭だった!「り……に、毒を」不可解な言葉と密室の連続毒殺事件。毒物は特定されず摂取経路も不明。事件に影を落とすのは《七夕伝説》の闇。なぜ七夕は七月七日なのか。「金銀砂子」に隠された秘密、子孫根絶やしの呪いとは。《毒草師》こと名探偵・御名形史紋がすべてを解き明かすとき、古代史のタブーが現れる。
「毒草師」第4作。
七夕にまつわる悲劇と原因物質不明の毒殺事件を描く歴史ミステリ。「QED」のスピンオフでもあるシリーズ作、およそ3年ぶりの新刊です。ライフワークでもあった「QED」の完結を受けてか前作は蘊蓄量増し増しで若干胃もたれし掛けてしまいましたが、今作では事件パートとの塩梅も良く、重すぎず軽すぎずな適切なバランスが保たれていました。
本巻のテーマはタイトルどおり、7月7日の七夕について。連続毒殺事件と並行して万葉集や古今和歌集を引き合いに、そこに秘められた人々の想いと隠された意味に迫ります。根底に流れるテーマや七夕で用いられる竹や笹といったアイテムの含意については高田作品ではもはやお馴染みのものであり、『QED 竹取伝説』にて既に触れられていることもあってさほど新鮮味はありません。一方で、さんざん語られる蘊蓄が星祭家に代々根差す抗いようのない宿命に重みを与え、有無を言わさぬ人智を超えた部分での悲劇性を演出することにも繋がっています。初期作品以降、何かと乖離しがちと言われてきた歴史講釈と殺人事件が久々にしっくり噛み合った好例でしょう。
どんな毒も無効化してしまうハズの人間がなぜ毒殺されたのか?という命題もミステリとしては惹かれるところで、毒草師や解毒斎といった現実離れしたキャラクター設定がファンタジーミステリ的な特異な殺害状況を生んでいるのも魅力です。とはいえメカニズムそのものはそれなりに納得できるレベルである反面、もう少し伏線が丁寧に張られているとなお良かったといったふうでもあり、必ずしも最上の驚きに繋がっているわけではないのが惜しい部分でしょうか。
御名形と西田君のやりとりも相変わらず微笑ましく、楽しめました。ともすれば本家「QED」よりも好きなシリーズなので、次作の刊行もなるべく早めにお願いします。
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