2015.08/12 [Wed]
麻耶雄嵩『あぶない叔父さん』
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★★☆☆☆
鬱々とした霧が今日も町を覆っている――。四方を山と海に囲まれ、古い慣習が残る霧ヶ町で、次々と発生する奇妙な殺人事件。その謎に挑む高校生の俺は、寺の小さな離れに独居してなんでも屋を営む、温厚な叔父さんに相談する。毎回、名推理を働かせ、穏やかに真相を解き明かす叔父さんが、最後に口にする「ありえない」犯人とは!
霧に覆われた陰鬱な町で起きる殺人事件の数々に、なんでも屋の叔父さんと彼を慕う語り部の少年が巻き込まれる連作短編集。
麻耶雄嵩の最新作は金田一耕助を思わせる風貌の、気弱で人の好い叔父さんが探偵役を務めた全6篇から成る短編集。とはいえ、そこは麻耶雄嵩、当然普通のミステリであるはずもなく。いかにも名探偵然としたキャラクターを意識的に登場させた上で本格ミステリ全体を皮肉るような、名探偵像へのアンチテーゼを指向した実に捻くれた作品となっています。
ただし本作についてはその方向性が空回りしている感もあり、第1話で見せた禁じ手で読者を驚かせたかと思えば、以降の章も殆ど出オチ同然の展開を執拗に繰り返してくるため、真相がどうこうといったミステリ的な旨味は皆無に等しいです。これをシュールな天丼ギャグと笑えるか、ワンパターンでダレていると判断するかで本書を楽しめるかどうかが決まるでしょう。
それぞれの事件に使われているトリックもかなり無理くり且つ凡庸なネタが多く、さほど面白味はありません。それを含めて既存のミステリを嘲笑っている、といった見方もできるにはできるのでしょう。叔父さんはじめとする登場人物たちも基本的には善良な人間として描かれ、あまつさえどの話もハートフルと受け取られ兼ねない〆め方をしてはいるのです。しかし、よくよく読んでみればそんな和やかムードになることがまず異常であり、そこでしんみりしてしまうこと、“良い話”として終わってしまうのは頭のネジが数本ぶっ飛んでいなければ到底出来ない所業です。そのため読後感は決して悪くないにも関わらず、据わりの悪さと薄ら寒さが滲んでいて、まるで晴れることのない霧に包まれた町そのもののようでもあります。
物語としても最終章でまったくケリがついていないのももやもやの一端を担っているのですが、そうした瑕疵になり兼ねない部分さえも「麻耶だから」のひと言で肯定もしくは絶賛されてしまうのは、なんとなくズルい作家だなぁと思うのでした。
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