2015.08/04 [Tue]
山本弘ほか『〈TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE 01〉 多々良島ふたたび ――ウルトラ怪獣アンソロジー』
![]() | 多々良島ふたたび: ウルトラ怪獣アンソロジー (TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE) 山本 弘 小林 泰三 三津田 信三 田中 啓文 藤崎 慎吾 北野 勇作 酉島 伝法 早川書房 2015-07-23 売り上げランキング : 2037 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
怪獣ブーム直撃のSF作家7人が挑む、ウルトラ怪獣小説7篇。本篇の再解釈に挑む山本弘、正義の化身となった女子高生の苦悩を描く小林泰三の短篇ほか、北野勇作、三津田信三、田中啓文、酉島伝法、藤崎慎吾が日本SFの象徴的イコンをリスペクトする円谷プロ公式アンソロジー。
昨年の終わりから「TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE」と題して『SFマガジン』に掲載されてきた円谷プロとのコラボ企画がこの度、1冊にまとまったので購入しました。執筆陣は山本弘、小林泰三、北野勇作、三津田信三、田中啓文、酉島伝法、藤崎慎吾の全7名。基本的にはSF作家という括りになっていますが、ミステリファンに馴染みの作家も多く、ジャンルに拘らず楽しめる作品です。
山本弘「多々良島ふたたび」
『ウルトラマン』第8話「怪獣無法地帯」の後日談であり、なぜ多々良島に限って何匹もの怪獣が出現したのかを考察した話。本編の疑問点を論え、細かな伏線を効かせたミステリ調のストーリーは、さすがは本格ミステリ大賞作家です。チャンドラーの名前の由来や公式には回答が与えられていないピグモンとガラモンの関係性を理屈付け、「射つな!アラシ」へのブリッジエピソードにもなっているマニアックさがツボをよく押さえています。
北野勇作「宇宙からの贈りものたち」
『ウルトラQ』のナメゴンとバルンガをフィーチャーした作品。町内会の仕事で“火星の薔薇”と呼ばれる青いバラを荒らすナメクジ退治を頼まれた青年が夢と現の入り混じる世界へと迷い込み、一読判然としない物語は難解というよりもわけわかめ。これは合わなかったです。
小林泰三「マウンテンピーナッツ」
雑誌発表時に物議を醸した問題作。『ウルトラマンギンガ』の千草を主人公に、過激な怪獣愛護運動による人命の軽視と本末店頭な自己矛盾、正義とは何か苦悩する姿が描かれます。市民がウルトラマンにスペシウム弾頭弾を撃ち込み、ノスフェルを庇護した結果大量のビーストヒューマンが街に溢れ地獄絵図と化すなど、悪趣味なくらい『ギンガ』の世界観から掛け離れているものの、あとがきを読むとウルトラマンという題材に真摯に向き合っているのがよくわかる一品でもありました。ワンゼロの存在が物語を皮肉っている点もキャラクターを上手く使っています。
三津田信三「影が来る」
江戸川由利子が体験した怖ろしい出来事を綴ったホラー小説。『ウルトラQ』のレギュラーメンバーが万遍なく登場し、本編の内容も踏まえたストーリーになっているのが嬉しいところ。テレビシリーズのうちの1本といっても何ら違和感がない反面、紛れもなく三津田信三の作にもなっています。強いていえば、“ウルトラ怪獣アンソロジー”なのに怪獣が登場しないのが瑕か。
藤崎慎吾「変身障害」
『ウルトラセブン』の数十年後を舞台にした後日譚。少し不思議、な方のSFでしょうか。なぜ変身できないのか?といった大元のネタ自体は見当が付きやすいけれど、「ウルトラシリーズ」をこういった視点で捉えた話を一度はやってほしかったのも事実です。『ウルトラセブン』第17話「地底GO! GO! GO!」は必見、参考として『ウルトラマンメビウス』第21、22話を観ておくのも良いでしょう。『ウルトラマンマックス』の「狙われない街」を思わせる台詞にもニヤリとさせられます。
田中啓文「怪獣ルクスビグラの足型を取った男」
既存のエピソードだと『ウルトラマンティガ』第49話「ウルトラの星」、『ウルトラマンマックス』の「胡蝶の夢」が近いでしょうか。怪獣の足型採取を生業とする男の一世一代の大仕事にメタ的要素を加えた短編です。本アンソロジーはウルトラマンや怪獣をそれ自体よりも、その周りに存在する市井の人々に焦点を当てたものが多いように感じます。オチているようでオチていない、これもまた「これから30分、あなたの目はあなたの体を離れ、この不思議な時間の中に入って行くのです」な世界ですね。
酉島伝法「痕の祀り」
ウルトラマンに倒された怪獣の死体はどうなるのか。ウルトラマンや怪獣をキャラクターではないリアルな生き物として捉えるコンセプトはインターネット上にアップロードされた謎の動画『ULTRAMAN_n/a』や『パシフィック・リム』的な視点であり、ウルトラマンを斉一顕現体、怪獣を万状顕現体といった造語で表現し、その戦闘がもたらす人体への影響や寄生生物や生体構造に突っ込んで考察するなど収録作中最もSF色の濃い小説でした。「ウルトラシリーズ」におけるお約束を〆めに用いた演出も小憎いです。
各作家の個性が物語に存分に活かされ、それぞれがその人にしか描けない“ウルトラマンの世界”を表現していて興味深く読めました。
とはいえ、全体的に『ウルトラQ』~『ウルトラセブン』の第1期シリーズ、頑張っても『帰ってきたウルトラマン』までの内容に寄っているのが気になるところで、それが著者自身の思い出に立脚しているからなのか出版社側の要望なのかはわかりませんが、大人向けコンセプトの「ウルトラ」小説、“歴史と伝統あるウルトラシリーズ”といった際に原点ばかりに注目し、以後の流れを殆ど汲まないでいるのは、果たして真に「ウルトラ」の歴史に沿っていると言えるのか強く疑問に思います。
平成三部作やハイコンセプトシリーズを扱った作品は当然のようになく、一部ファンに評判の悪い第2期シリーズ、やや影の薄い第3期も基本的にはスルー。穿った見方をするなら(切り口はともかく)実に保守的で懐古趣味なアンソロジーでもあるのです。
面白かった同時に、いつまで経っても「セブン、セブン、セブン」、「『ウルトラQ』と『ウルトラマン』が至高!」「昭和レトロ至上主義」の閉じた世界のままで良いのかな、とも感じました。続刊ではより広範な「ウルトラ」ワールドを見せてくれることを望みます。
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