2015.07/30 [Thu]
河合莞爾『粗忽長屋の殺人』
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★★★☆☆
粗忽者で有名な熊五郎の長屋に怒鳴り込んできた、これまた粗忽者の八五郎。「熊、おめえ浅草の浅草寺で死んでるぞ。この粗忽者め、死んだのに気がつかねえで帰ってきやがったな?」――いかにも落語ならではの粗忽噺『粗忽長屋』。しかし、浅草寺で行き倒れていた「熊五郎に瓜二つの死体」の正体はいったい?
古典落語を題材にした連作ミステリ。このところ隆盛しつつある落語を取り扱ったミステリのひとつですが、特殊な分野を専門外から覗き見ることで謎を創出するいわゆるお仕事ミステリ的なアプローチとは違い、長屋のご隠居や熊さん、八っつぁんといった落語の登場人物たちが噺の中で奇妙な出来事を解決するパスティーシュに仕上がっています。
また、落語ミステリのジャンルとしても異色なだけでなく、これまで本格ミステリ色の強い警察小説を発表してきた作者のキャリアからしてもかなり方向性の異なった、新境地ともいえる作品です。
収録されているのは表題作「粗忽長屋の殺人」の他、「短命の理由」、「寝床の秘密」、「高尾太夫は三度死ぬ」の全4篇。どれも名作とされる有名な落語を下敷きに独自のアレンジを加え、時にはいくつかの噺を組み合わせながらミステリ仕立ての新たな物語へと生まれ変わらせています。各話の冒頭には元ネタとなった噺のあらすじも載せられているため、まったくの門外漢でも問題なく読めました。
この部分が実は結構な肝にもなっており、予めオリジナルの内容を紹介した上でいかにしてそこへ着地させるのか、決められたオチをどう使ってくるのかが関心事となり思わず膝を打たせる構造は、本格ミステリのそれと大いに通じるところがあります。落語を聴いて思わず「上手い!」と唸らされる箇所と、ミステリを読んでの「巧い!」が完全に一体化しているのです。
ひとつひとつの謎解きでそれほどインパクトを残すわけではないにせよ、メタネタ、時事ネタをぶっ込んでの語りにも大変笑わせて貰い、それこそ新作の落語を4本聴いたかのような楽しい読書ができました。
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