2015.07/16 [Thu]
周木律『教会堂の殺人 ~Game Theory~』
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★★☆☆☆
その疑問に対する解があることを、私は保証する。なぜなら、教会堂には『真理』があるのだから
狂気の建築家が建てた、訪れた者を死に誘う館――教会堂。そこにたどり着いた人々は次々に消息を絶ち、ある者は水死し、ある者は火に焼かれ、ある者は窒息した状態で、発見される。警察庁キャリアの宮司司は、失踪した部下の足取りを追い、教会堂へと足を向けた。待ち受けていたのは、均衡に支配された迷宮と、『真理』を求める死のゲーム……! 天才数学者が出題した極限の問いに、解は存在するのか?
「堂」シリーズ 第5作。
ゲーム理論が支配する館に仕掛けられた罠から逃れ出る方法を考える脱出ミステリ。シリーズもののミステリとしては衝撃のラストを迎えた『伽藍堂の殺人』を受け、山奥に建てられた館で新たなステージが幕開けます。
今回のテーマはナッシュ均衡とパレート効率、そして“囚人のジレンマ”。各人の利益が最も安定する選択であるハズのナッシュ均衡が、必ずしも全体に対して最大の利益を生む結果となるわけではない“囚人のジレンマ”を体現したかのような殺人装置が登場し、その鉄壁にも思えるシステムの盲点を探り、最終的に見事抜け出すことができればクリアとなるゲーム性を重視した作品です。
これまでの作品ではトリックや事件の構図に数学的モチーフが用いられ、真相が明らかになると共にそれらが浮かび上がってきたのに対し、本作では予め機械トリックの仕組みがほぼ詳らかにされており、与えられている情報からその解法を推理するといったアプローチがとられています。
館の仕組みと物語の展開から一度に参加できる人数も限られていて、犯人はおろか事件すらも起きていないのは館ミステリとしては相当異色。ミステリにおける面白味をすべて削ぎ落としているに等しいつくりは到底歓迎し難いです。ただ十和田が水先案内人となるダンジョンに挑み、勝つか負けるか生き残るか死んでしまうのかというだけの単純化された話に尽きてしまっているのです。
もはや先人の模倣とか、そういうレベルを越えて長編ミステリでこんなものを出して許されるのかすら疑わしい。
確かにシリーズの今後に大きな揺さ振りを与えそうな結末ではあるし、折り返しのインターバルだからといった見方もあるのかもしれないけれど、仮にも本格ミステリを謳っているのに大きな流れのために個々のクオリティを捨てたら意味がないでしょうに。
というか、ノベルス読者の求める方向性って十和田がどうした、百合子がどうなったよりも断然、ミステリ的にどこが優れているか?だと思うのですが……。そこらへん、どうも履き違えているような。
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