2015.07/11 [Sat]
周木律『暴走』
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★★★☆☆
「hf」と書かれた紙片を隠し持った腐乱死体の発見と前後して、最新型工業用ロボット・タウに管理される化学工場で従業員が大量死する事件が発生。警備員の島浦は原因究明のため単身工場へ乗り込むが――。
謎の危険物漏洩事故に見舞われた化学工場内に取り残された元刑事の警備員が、原因究明と被害拡大阻止のために奮闘するパニックSFミステリ。
昨年角川から刊行された『災厄』に続き、集団死事件によるパニックサスペンスの中に本格ミステリ的なフォーマットを取り入れたエンタメ小説の第2弾です。前作は年末のランキング本では総スルーだったものの真相の意外性と伏線の回収が素晴らしく、昨年度の私的本格ミステリ・ベスト5に入るくらいに出来が良かったので、この路線の周木律が再び読めるのは嬉しい限りです。
ちなみにあらかじめ断りを入れておくと、『災厄』とはあくまで同一のコンセプトというだけで内容に繋がりはありません。
本作では有害物質に満たされた空間内での大型自動制御ロボ・タウの暴走をいかにして食い止めるかが核となっていて、工場に残る島浦と彼の昔の同僚であり、現職の警察官である石倉のふたりが上の意向に振り回されながらも内と外からこれに対処します。
『災厄』に比べると全体に粗く、思わせぶりに出てきたものが全体を俯瞰すると未解決の余剰なパーツで終わったり、タウのシステムに関しての練り込み、描き込みが甘いため、一応は伏線に基づいた解決策をとっているとはいえ作者の狙いほどミステリ的なカタルシスを得られていのが惜しいところ。条件設定をして選択肢の幅を狭めていないので割と何でもアリになっちゃっているというか、後付けでどうとでも書ける余地が残されてしまっているのです。
登場人物が極端に少ないことでメタ視点から真犯人を看破できてしまうのもお約束といえばそのとおりですが、些か捻りが足りないでしょう。
そうはいっても、あくまでミステリではなくパニックエンタとしての視点に立てばリーダビリティも高く、タイムリミットサスペンスの要素もあって手に汗握る展開に、存分に楽しませて貰いました。
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