2015.07/09 [Thu]
天祢涼『謎解き広報課』
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★★★☆☆
田舎の町役場に就職した、都会育ちの新藤結子。やる気も地元愛もゼロの新人が任されたのは広報紙づくり。取材するのは、名産品、豊かな自然、魅力的な住民、そして「謎」――。 「来年で仕事を辞める」と心に決めながら、取材と締め切りに追われる結子。ある日、町立病院の院長から「難病で死んだ息子を記事にしてほしい」と頼まれるが、死因に不審な点があることに気付く――。仕事熱が高すぎる上司・伊達、暴言連発の町長・鬼庭、東京から左遷されてきた新聞記者・片倉たちに囲まれながら、彼女は事件解決に奔走する。
地方の町役場で広報課に配属されることになった新人公務員の主人公が、取材を行う過程で何かと問題にぶち当たり、その度々に謎解きを余儀なくされるお仕事ミステリ。
いまや作者のお得意ともなった特定の職業をクローズアップしたユーモア調の連作ミステリで、ジャンルとしては日常の謎になるでしょうか。防災組織運営に使命感を燃やす元締めが突然解散を宣言した理由、デジカメで撮られたお祭りの写真を消した犯人探し、ゲームの製作者が町がモデルになったことを頑なに否定する理由などの全5篇構成です。
ヒロインの結子は過去の失敗から「頑張ること」をやめた倦んだ日々を送っており、そんな彼女が嫌々ながらの取材を通して段々と広報紙づくりの楽しさに目覚め、失敗を乗り越えて大切なものを取り戻していく成長物語でもあります。
優しそうに見えて腹黒な上司の下、広報紙担当の仕事に追われる結子の1年間を描きながら、最終的に大きな流れとなって地方自治体の晒される現況から広報紙の存在意義を問う社会派な一面も持ち合わせていて、それが全体を通しての謎に直結してストーリーとミステリの両方からクライマックスを盛り上げているあたりが上手いです。
ひとつひとつの短編の出来も申し分なく、探偵役が天才型ではないあくまで等身大の素人であるからこそ推理のひっくり返しを生んでいるのも興味深い。
難点を挙げるとするならば、どれも小綺麗にまとまりすぎていて飛び抜けて鮮烈な印象を残す話がないことでしょうか。明らかに『もう教祖しかない!』の執筆中に思いついただろうというアイディアが見られたりと、どことなく副次的な匂いがし、天祢涼の実力からするとこのくらいは片手間で書けてしまいそうな気もするんですよね。そろそろ講談社ノベルス作品のような、いかにも探偵小説然なガツンとしたミステリも恋しいです。
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