2015.06/30 [Tue]
市川哲也『名探偵の証明 密室館殺人事件』
![]() | 名探偵の証明 密室館殺人事件 市川 哲也 東京創元社 2014-11-12 売り上げランキング : 587560 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
なぜなら、蜜柑とは――名探偵とは――死神なのだから。
気がつくと密室館と呼ばれる館にいた日戸涼は、他に七人が閉じこめられていることを知らされる。屋敷啓次郎に心酔しているミステリ作家・拝島登美恵が、取材と偽って密室館に監禁した男女八名。顔を兜で隠した人物や何事にも無気力な人物など曰くありげな人々に加え、名探偵として誉れ高い蜜柑花子までいた―!! 館内で起こる殺人のトリックを論理的に解くことができれば解放される、と拝島は言うが果たして? 出口のない館の中で次々に起こる殺人事件。名探偵・蜜柑花子がその謎に挑む。
「名探偵の証明」第2作。
狂気のミステリ作家によって監禁されてしまった人々が、掲げられたルールに則って次々と命を落としていくデスゲーム系ミステリ。第23回鮎川哲也賞受賞作の続編で、名探偵・蜜柑花子の単独作。作者によると、三部作のうちの真ん中に当たる作品とのことです。
今作のテーマは被害者遺族から見た名探偵。一般にコード型の本格ミステリは意図的にせよ自然現象にせよ閉鎖空間で殺人劇が行われることが多く、外部との交信が絶たれたままに惨劇が繰り広げられ、事件が解決して晴れて解放されるというのがお約束です。殺人事件が起こる以上、誰かが命を落とし、それがなければ始まらないという意味では登場人物は事件のパーツであり、駒であることは否定できません。
しかし、そんな物語上“殺されるべき人間”も家に帰れば当然家族がいるわけで、名探偵が事件を解決してハッピーエンドで終わってしまった物語の関知しないいわば“小説外の世界”ではその死を嘆き、悲しみ、取り残されてしまう人が確かに存在しているのです。そうした物語の舞台にすら上げて貰えなかった人々から見て、名探偵とはどんな存在なのか。本当に称えられるに値する人間なのかを改めて問うたのが本作で、名探偵とワトソン役の関係性を描いた前作とはまた違った視点から、その宿命と背負いし業が描かれます。
作中では古典や名作は勿論、『謎解きはディナーのあとで』や『インシテミル』、『体育館の殺人』に西尾維新といった現行のヒット作や作家にまで言及しており、上述の名探偵論や屋敷啓次郎の活躍が新本格ブームを招聘した設定含め、本格ミステリジャンル全体を包括的に捉えていこうという姿勢が強く感じられます。この一種のオタク臭さは鮎川賞よりもメフィスト賞的といいいますか、キャラ立てや表紙イラストのポップさでライト層にも訴求力がありそうに見えて、その実かなりニッチな作風です。
その一方、謎解き部分に関してはかなりレベルが低いと言わざるを得ないのも前作同様で、一応の理屈付けはあるものの、理論武装で正当化しようとすればするほど書きたいテーマに対して圧倒的に実力が足りていないように見えるのは重大な欠点です。
どんなにアンチミステリちっくな主張をしたところで本格である以上、読者の驚きは大きい方が良いに決まっているし、しょぼしょぼなトリックが何の効果も生んでいないのならそれは単なる肩透かしでしかありません。
ストーリーテーリングは悪くはないと思いますが、どうしても下手の横好きな感が否めないんだよなぁ。限りなく★×2に近い★×3で。
スポンサーサイト
Comment
Comment_form