2015.06/19 [Fri]
織守きょうや『黒野葉月は鳥籠で眠らない』
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★★★☆☆
ねえ、もうそろそろ、私のこと好きになった?
15歳の少女にわいせつな行為をさせたとして21歳の元家庭教師が逮捕された。被疑者の大学生は何かを諦めたように本心を話さない。頭を抱える新米弁護士の前に現れた黒野葉月――被害者の高校生は、やがて途轍もない行動を起こす。法の奥深くへ分け入り、新米弁護士木村と先輩高塚のコンビが知る、四つの秘密。予測不能の事件の行方。加害者も、被害者も――相談者たちは、一様に何かを隠している。
新米弁護士が自身の担当する案件の裏に潜んだ依頼人の思惑に翻弄される連作ミステリ。実際に弁護士の仕事をしている作者によるリーガル・ミステリ短編集です。
本書は著者初のミステリ作品ながら第3話「三橋春人は花束を捨てない」がこの1年に発表された秀逸な短編本格を集めた『ベスト本格ミステリ』の2015年版に選出されるなど、その内容と実力は折り紙付き。「依頼人は嘘をつく」との有名な言葉どおり、それぞれの相談者には何かしらの隠し事があるように感じられ、より適切な対応を行うために主人公がその真意を探っていく、ホワイダニットに力点を置いた短編集となっています。
収録されている4篇はどれも現行の法制度を逆手にとった一手が本格ミステリとしての驚きを生んでいるものばかりで、依頼人を取り巻く状況と目的の不一致が作る二重、三重の堅牢な壁をいかにしてクリアし、期待される結果に近付けるかという構造は物理トリックのそれと同じといえるでしょう。いわば個々人の心情と法律に由来する不可能状況の創出です。
ヤンデレに片足を突っ込んだクーデレ女子高生、黒野葉月がキーパーソンとなる表題作は特にこれが極まっており、被疑者すらも抵抗を諦めたがんじがらめの負け戦から、たったのひと言ですべてをひっくり返す鮮やかさには感嘆しました。
どちらかといえば堅実なタイプの作風ではありますが、本格ミステリを書く技量は疑いようもありません。円居挽、森川智喜に続く講談社BOX出身作家のミステリジャンルにおける活躍を、大いに期待したいです。
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