2009.11/28 [Sat]
久住四季『鷲見ヶ原うぐいすの論証』
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★★★☆☆
そう。神は人間に応えない。
人間に応えるのは悪魔だけ。
うぐいすという少女は変わり者である。いつも図書室にこもっていて、教室に顔を出すことはない。だが、試験では常に満点というひねくれぶり。なぜか譲はそんな彼女と奇妙な付き合いが続いていた。変わり者には変わった依頼が来る。天才数学者、霧生賽馬は魔術師である――その真否を問い質してほしいというのだ。かくしてうぐいすと譲は霧生博士が待つ麒麟館へ。だが翌日、霧生は首なしの死体となっていた。限られた容疑者は全員が無実という奇妙な状況に陥り!?魔術師であるのか、殺人なのか、被害者はいるのか、犯人はいるのか、これはそれらすべてを「論証」する物語である。
ゆずさんもうぐいすも好き好き大好き超愛してる。
否が応にも『涼宮ハルヒの憂鬱』をとさせるであろう『○○○○の~~』というこのタイトル。まぁ内容を如実に表したタイトルなわけですが、昨今のライトノベルの中でも爆発的に売れている作品と被るようなネーミングは避けるべきだったんじゃないかなぁとか独り言を言ってみる。
とはいえ当然ながら内容は全然違います。こちらは普通にミステリ小説。ライトノベルといって侮っちゃあいけません。被害者が“魔術師”で犯人が“悪魔”だとか、一見するとぶっ飛んだ設定に彩られていていかにもな感じも受けますが、中身は至って現実的。科学的な見方による魔術師の証明なんかをやってみせますし、それらをはじめとした序盤の魔術の仕組みと神の存在に関するやりとりなんかは読んでいてかなり面白い。そして何より、わかりやすい。
神経系素質者なる所謂特殊能力の持ち主が何人か出てきますが、彼女たちはある理由から“登場人物”として集められただけ。そういった理由付けからもわかるように“この世界”の論理は極めて現実に即していて、真相の解明も通常のミステリと同じ現実レベルで推理できるようになっています(首切りの論理もきちんと検証されていてフェア!)
そもそも『相棒 Season7』最終話のきぃちゃんや「《あかずの扉》研究会」シリーズの咲さん、「戯言シリーズ」の玖渚等々、特殊な能力の持ち主って本格ミステリにはつきものですし、そこらへんも極めて本格っぽい。
というか、特別な才能を持つ人間が集められた孤立空間での首切り殺人ってまるまんま『クビキリサイクル』なプロットで。あちらは割と明るく陽気だったのに対して、こちらは結構陰鬱な雰囲気が漂っていますが。
そんなわけでストーリーやトリック、論証の過程は一ミステリ小説として充分に通用する内容で、中身も面白いので「ラノベはちょっと……」という一般のミステリファンの方々にも是非読んで貰いたい作品です。
まあ室火野さんのセリフの端々とか若干のラノベ臭がしなくもないんですけど、登場人物も別段キャラっぽくないし、挿絵が最小限なのもグッド。絵柄は好み。うぐいすかわいい!カラーじゃない方が画の繊細さが映えるような気がしますね。
(以下、若干のネタバレ)
それはそうと、最近のミステリって必要以上のことは証明しない傾向にあるのでしょうか?たとえば今回は、千代辺さんの能力が上手く機能しなかった理由として作中では当初、ひとつの可能性が挙げられています。しかしながら、犯人が目されていた人物でなかった以上、通常そこは再考しなくてはならないポイントになるハズです。でも、それはしない。「そこはさっき“たとえばこんな方法があるよ”って提示してみせたでしょ?」みたいな。そんな感じ。
まほろさんもたまにやるんですよね。『土剋水』の凶器持込みの過程なんかが、そう。絶対的解答を提示せず、可能性の言及で終わらせてしまうのはある意味ズルいとも思うのですが、一方で著者の「まあこのくらい突き詰めるまでもない些細な問題ですよ」的な余裕さ加減を表しているようにも見えて、そんなことに拘っていた自分は何か負けた気分に……なりません?
……しかし、この事件のトリック、終盤でうぐいすが“ルールの変更”、“麒麟館という密室の蓋を開けて、より大きな舞台で~”と言った瞬間、完全に「解けた!」と思ったんですけど――確信したんですけど、全然的外れでしたorz
――真相が“五感を敏感にさせるセンスによってもたらされた、
パスワーキングによる殺人事件の擬似体験”だと思った人 ゜д゜)ノシ
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