2015.06/12 [Fri]
市井豊『人魚と金魚鉢』
![]() | 人魚と金魚鉢 (ミステリ・フロンティア) 市井 豊 東京創元社 2015-02-27 売り上げランキング : 157719 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
自分は人畜無害そうに見えるのかな、と思ったことはあります。
友人からは一言、体質だろ、と言われましたけど。また、誘蛾灯のようだ、と言われたこともあります。
音楽学科の学生選抜コンサートの会場となるはずだった、大ホールのステージを泡だらけにした犯人は誰か? そしてその理由とは? 爽やかな余韻が残る表題作ほか、聴き屋だからこそ真相に気づけなかったエピソードを描く「恋の仮病」、美少年タレントの謎の行動の理由を探る「世迷い子と」など全五編を収録。生まれながらの聴き屋体質で、どこに行っても聞き役となり、その結果いつも謎解きにつきあわされる柏木君と、彼を取り巻く文芸サークル第三部、“ザ・フール”の愉快な面々が推理を繰り広げる。
「聴き屋」シリーズ 第2作。
何かにつけて他人に色々な話を聞かされる天性の聴き屋体質を持つ大学生が、持ち込まれる厄介事とそれにまつわる人間関係を解きほぐしていく連作ミステリ。デビュー作『聴き屋の芸術学部祭』に続くシリーズの第2弾で、最後の最後に人死にがあった前作とは異なって今回は完全な日常の謎ものに徹しています。
七回忌を迎える祖父が生前、なぜ涙を流していたのかを推理する「青鬼の涙」に、フリーマーケットが開かれた公園でかくれんぼの潜伏場所を探す「愚者は春に隠れる」と、いかにも日常の謎らしい内容の感動作からくだらなすぎるお遊びまでをも論理で詰めていく全5篇はバラエティ豊か且つユーモアに溢れ、懐深いです。
収録作中最も印象的だったのは、柏木くんが心理学の教授に頼まれ、自らの聴き屋体験として互いに好意を抱いていたわけでもないのに付き合うことになったふたりのエピソードを講義で披露する「恋の仮病」で、当人たちの心情は元より、そもそもの問題として「この講義は何を目的に行われているのか?」という着地点を推理させる発想が実にトリッキーです。
とはいえひとつひとつのお話は満足できるクオリティながら前作に比べると些かパワー不足な感も否めなく、多作な作家のたくさんあるうちの1作ならばともかく、決して刊行ペースが早いとはいえないデビュー以来3年ぶりの新作としては、小さくまとまりすぎてちょっとインパクト薄かもしれません。
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