2015.06/10 [Wed]
風森章羽『雪に眠る魔女 霊媒探偵アーネスト』
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★★★★☆
けれど、家とはそういうものです。
家が人のために存在するのではない。人が家のために存在しているのです。
喫茶店“リーベル”のマスター、竜堂佐貴。彼には“特殊”な友人がいる。名はアーネスト・G・アルグライト。誰もが振り向く美貌を持つ、英国出身の由緒正しき霊媒師だ。ある日、店を訪れた客が佐貴に持ちかけたのは、「死者に紅茶を淹れる」という奇妙な依頼。依頼人は、未来予知の能力を持つ女性が代々生まれる、『視人様』と呼ばれる一族「地守家」の一人だった。首を捻りつつも地守家の屋敷に向かった佐貴だが、そこにはなぜかアーネストの姿が! 地守家の土地では二ヵ月前に、女性が不審な死を遂げていた。「自殺」とも「雪女に殺された」とも噂される中、雪女の殺意はアーネストと佐貴にも忍び寄り……!?
「霊媒探偵アーネスト」第3作。
メフィスト賞受賞シリーズの3作目。古くから未来を予知する力を持つ“視人様”を輩出してきた地守家にゆかりの土地にて、四十数年に渡って幾度も見つかる猟奇的な死体にまつわる真相と、旅館の娘・牧緒が目撃した雪女の正体を解き明かす本格ミステリです。
本書の舞台はいまなお地守家の影響力が強く残る、雪の降り積もる鄙びた田舎町。予言者の一族と地元の有力者、都会から離れた温泉街、長いスパンを置いて見つかる同一状況の変死体と魅力的なガジェットが満載で、街中での調査が主となった前作よりもデビュー作『渦巻く回廊の鎮魂曲』に近しい作風となっています。
テーマともなっている雪が物語全体に厳か且つ静謐な印象を与え、その白さと冷たさがどんよりと重くのしかかる感情から陽光に輝くものへと昇華される浄霊シーンは極めて美しいです。
ミステリとしても前作で感じたような不足はなく、丁寧な伏線とお手本のような謎解きできっちりしっかり楽しませてくれます。
それだけであれば単に「優等生的」で終わってしまうところですが、今作では霊媒探偵の延長線上にある存在として予知能力者の一族という設定が推理面にも組み込まれ、普通のミステリではあり得ない超常の論理を生んでいるのです。特に、三椿荘に能面が贈られた理由と真犯人による調査妨害の裏に秘された“ある可能性”の指摘には思わずぞくりとさせられました。
本当にそれが真実かどうかわからないからこそ、かえって不気味さを呼び起こし、情念の強さを感じさせる。これは前作とはまた違ったアプローチで、自らの強みをよく理解して上手に活かしているのが窺えます。
どちらかというとイロモノなミステリの方が好きな自分にとってはかなりのツボですし、受賞作刊行時に抱いた危惧や不満も何のその。個人的にはかなり期待のシリーズになりつつあります。いやぁ、良かった。オススメです。
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