2015.06/06 [Sat]
大森葉音『プランタンの優雅な退屈』
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★★★☆☆
いますよね。応用問題はすらすら解いちゃうのに、基本問題がまったくできないひとって
潤沢な資源のおかげで平和で穏やかな毎日の「退屈王国」。そんな国の未来を脅かす新エネルギー政策の発表とともに起こった「衣装戸棚の女」密室殺人事件。王女プランタンは野次馬根性――もとい、持ち前の好奇心から事件に顔をつっこむが、推理は堂々巡り。空間と空間のあいだ、ってなに?
退屈王国の王女プランタンが自身の政略結婚を懸けた推理勝負として、王宮内で起きた密室殺人の真相解明に挑むミステリ。
ミステリ評論を本業とする作者の手掛けた2作目の小説だそうで。現代設定の架空の島国が舞台にも関わらず、SFというより古き良き空想科学小説にでも登場しそうなテクノロジーが当然のように存在し、キュートでポップでメルヘンちっく、ナンセンスに溢れた世界観と文体はさながら『不思議の国のアリス』のよう。その独特な読み味故に合わない人にははっきり合わない作品ではある反面、そうしたファンタジックな要素がバカミスを通り越してトンデモすぎる発想を“アリ”なものとして、読者に受け入れさせるだけの下地を構築しているのもまた確かでしょう。
本書は大きく二部構成となっていて、まず導入部として基礎問題編が置かれ、それを踏まえて本題である応用問題編こと衣装戸棚殺人事件に入るのが最大の特色です。事件の核となり得る部分を予め明かした上で応用編に活かす、という試みはなかなかに挑戦的。実際、密室トリックや犯人の狙いを解明するにあたってそれらが大きな役割を果たす構造には感心するものの、解決パートの区切りが悪く、いわゆる解決編に入る前の中途半端な位置でメイントリックが暴かれてしまうのは、読み手側にそれが正答かどうか判断し難くさせていて微妙です。
結果として、ハウダニットをやりたいのか、それとも真の目的を主眼にしたかったのかで“解くべき謎”の焦点がブレてしまっているようにも見えました。
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