2015.05/26 [Tue]
伽古屋圭市『からくり探偵・百栗柿三郎』
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★★★☆☆
そうなんです!
大正の平賀源内改め東京のホウムス、浅草が生んだ奇跡の名探偵、百栗柿三郎です
大正時代の浅草。町のはずれにあるボロ家・百栗庵の主で発明家の柿三郎が、探偵稼業に踏み出した。冴えない風貌で発明品は珍妙だが、“顕紋粉”を使った指紋採取などの科学的な調査や、状況証拠から理論的に導き出す思考実験によって、明晰な推理を次々に披露! 機械式招き猫の助手・お玉さんを連れ、女中の千代とともに“ホモンクルスに殺された博士” “連続して発見されたバラバラ死体” “幻術師の元から消えた弟子”などの謎に挑むが……。
探偵業も承る発明家・百栗柿三郎が女中のお千代さんと共に、持ち込まれた事件を解決して回る連作ミステリ。
昨年度刊行された『帝都探偵 謎解け乙女』が早ミスや本ミスにランクインこそしなかったものの、アンケートで名前を挙げている人が少なからずいて気になっていた著者の、同じく大正時代を舞台にしたミステリです。
体裁としては全4篇の各幕間に関東大震災後の東京にいる柿三郎の様子がインサートされ、終章でそれらの描写が実を結ぶように大きな流れを作ります。
短編で描かれる事件は比較的オーソドックスなものが多く独自性の面ではやや訴求力を欠きますが、いわゆるライトミステリにありがちな伏線描写の不足もなく、なぜわざわざホムンクルスを庭に打ち棄てたのか、犯人が死体をバラバラにした理由は何か、といった諸々の事象に納得できるだけの答えをきっちり提示できていて良くまとまっています。
ワトソン役のお千代さんとは別に、もうひとりの助手であるからくり人形のTAMA3号ことお玉さんの存在を始め、“からくり探偵”と称するだけあって本作では一般的な大正時代像からは浮き上がったオーバーテクノロジー気味な発想がところどこに見られ、それらが事件の真相を覆い隠す役割を担う一方で、ヒントにもなっているのもポイントです。
たとえば第二話「あるべき死体」なんかは言われてみれば充分考え得ることながら、大正時代という年代設定が一種の先入観を植え付け、トリックの実現性こそ際どくも、読み手の盲点を巧みに突いた真相には感心させられました。
またエピローグに当たる終章の仕掛けにこそ目を奪われがちですが、むしろそこに至る過程である第四話「惨劇に消えた少女」が本書の白眉でしょう。多くの人間が想定するだろう展開をストレートに披露しているのにも関わらずそれでもなお、一定以上の“驚き”を担保しているのが侮れないところで、第一段階が簡単だからこそ、その後に待っている本当の構図が明かされたときに絶大な効果を発揮する。
所詮はこのミステリーがすごい!大賞作家、所詮は流行りの書き下ろしキャラミス――と、ナメ腐って掛かってきた読者をまさに刈り取るが如し。すべては作者の掌中です。
これはなかなか悪くないんじゃなかろうか。オススメです。
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