2015.05/19 [Tue]
辻真先『にぎやかな落葉たち 21世紀はじめての密室』
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★★★☆☆
北関東の山間にたつグループホーム「若葉荘」。世話人は元天才少女小説家。居住者は自在に歳を重ねた高齢者たちと、車椅子暮しながら筋骨隆々の元刑事と、身寄りのない彼の姪。賑やかで穏やかな日々は、その冬いちばんの雪の日、とつぜん破られる。密室に転がった射殺死体の出現によって――。ホーム最年少の少女スタッフは、隠された因縁を解き明かし、真相に迫ることができるのか!?
大雪の日のグループホームで発生した殺人事件から、過去に起こった地元有力者の家宝をめぐるとある事故の真相が浮かび上がる長編ミステリ。昨今すっかり一ジャンルを形成しつつある介護業界を題材にしたミステリですが、本作の場合はどちらかというと高齢化社会への問題提起のような社会派な側面よりも、人生を歩む上で変わらざるを得なかったもの、変わることのできなかったものといった心情部分を描くためのテーマセレクトといえるでしょう。
学生時代に天才文学少女として持て囃されるもいまはドロップアウトしてしまった世話人の寥、その幼馴染みであり亡き兄の親友でもあったグループホーム入居者、彼の姪で両親を失ってから父方の伯母家族の下で辛い生活を送っていた綾乃――目下、眼前で進行する殺人劇に彼女たちの幼い頃の記憶、その身に降り掛かった禍が絡まって、数十年の人生を追想するかのように物語が展開されていきます。
疑わしい人物や不自然な行動は最初から怪しいものとして描かれ、謎が解かれることで読者に対して驚愕の真相を突き付けてくるタイプの作品ではないにしろ、丁寧な状況整理によって段々と真実が紐解かれる手順を踏んだ推理とリアリティを度外視した大仰なトリックが良いアクセントとなり、謎解きの面白さは削がれません。
全300ページの文量で実際に人死にが出るのが200ページを過ぎてからなところは若干スローペースではありますが、紙幅を割いて語られるノスタルジックな空気漂う回想はまさしく事件の核心を成しており、いざ読み終えてみるとそこまでバランスが悪いとも感じませんでした。
キャラクター造形や文体はユーモラスで読みやすく、それでいて綺麗すぎないのも特色で、決して理想論にならない“黒さ”をしっかり書くことでホワイダニットに繋げつつ明るく救いのあるラストを忘れない、希望と優しさに満ちたミステリです。
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