2015.05/12 [Tue]
西尾維新『掟上今日子の推薦文』
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★★★☆☆
私が探偵をやっている理由は――私が探偵をやっている理由を知りたいからですよ
美術館で警備員を務める青年・親切守。彼が警護するエリアには訪れるたび、決まってある絵の前で立ち止まる白髪の美女がいた。彼女は掟上今日子。またの名を、忘却探偵。二人は警備員と観覧客のはずだった。美術品を巡る、数々の難事件が起こるまでは――。
「忘却探偵」シリーズ 第2作。
記憶を一日しか保てない名探偵・掟上今日子を主人公にした、西尾維新によるミステリ最新作です。「今日子さんには今日子しかない」との作中の文章どおり、前作で築かれた人間関係は今巻では引っ張らず、時系列的にも内容的にも一切の繋がりを断って、新たな語り部を迎えて物語が進行します。
今巻では美術と絵画をテーマにしていることもあり、装画の凝りようは恐らくVOFAN史上随一ではないでしょうか。前作の表紙がイマイチときめかなかっただけにこの美しさには惚れ惚れしました。
連作短編集であった前巻とは異なって、今作は二億円の絵画の価値が二百万円に変わってしまった謎が描かれる第一章を導入に、画家の卵たちが生活するタワーマンションで発生した刺傷事件をメインに据えた長編テイスト。たった一日で記憶を失ってしまうが故に名探偵である今日子さん自身の発言の矛盾が解くべき謎を創出し、自らそれを解き明かすマッチポンプ的なシチュエーションを生んでいるのが面白いです。
長編ミステリとしては登場人物の数が極端に少なく、多くの人間が居住する高層マンションという舞台のわりには犯人当ての楽しみが大幅にスポイルされているとはいえ、階段に残された血痕から組み立てられる一連のロジックには目を見張るものがあり、被害者の目指した『最後の仕事』とは何ぞや?に用意された答えの意外性、そこに至るまでの伏線の丁寧さには関心させられます。
ストレートな伏線で真相に気付かれるのを回避したかったのか、特に第一章においては一部に描写の不足を感じないこともないにしろ、その他の要素からも充分推理は可能であり、アンフェアにならないギリギリで踏み留まっているため、謎解きミステリとしての完成度も前作よりも高いです。
読後感もハートフルかつ爽やかで、読んで良かったと思える一作でした。
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