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300冊の積読本もなんのその、本や映画の感想などをつらつらと述べてみたり。

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川辺純可『焼け跡のユディトへ』

焼け跡のユディトへ焼け跡のユディトへ
川辺 純可

原書房 2014-11-25
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★★★★☆
弁天様かマリア様か夜叉姫か。
地主様の娘じゃし、またそれが、震いつきたくなるくらい別嬪での……原節子も山本富士子も真っ青よ

プールに浮いた最初の死体には能面が被せられていたという。そして二人目の死体にも。もしその「見立て」が正しければ三人目は「彼女」なのかもしれない……。敗戦から6年、瀬戸内のある軍港都市で起こった女性連続殺人事件。被害者たちを結ぶ糸、そして心揺さぶるその「動機」とは。やがて事件は反転し、悲しくも重い「真実」が浮かび上がる。


第6回 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作。
 終戦から6年。戦争の傷痕がまだまだ残りつつも人々が徐々に前を向き、逞しく日々を生き抜いていこうとしていた時代、瀬戸内海に面した港町でまことしやかに囁かれる“はま子さん殺し”に端を発する連続婦女殺人事件の顛末を描いた本格ミステリです。表題にもあるユディトとは旧約聖書に登場する絶世の未亡人のことで、主人公の探し人であり生き別れた実姉と思われる妖艶で優雅、資産家の貴婦人・槇紫苑が、侵略者をベッドに誘いその首を斬り落としたという彼女に擬えるかのごとくキーパーソンとして物語の核を担います。
 泥臭くも活気に溢れ、余所者でさえ温かく受け入れる闊達な人たちの生活とは隔絶されたゆるやかで気品に満ちた紫苑の日常、敗戦後の日本に確かに横たわる闇を覗くような能面の遺体の不気味さが、非現実的でどこか浮世離れした印象を与え、逆説的に時代の空気感を活写するのにも買っていました。

 被害者同士を繋ぐミッシングリンクとしての「見立て」は早々に答えが明らかにされ、さほど大きくは関わらず、謎解きにおいてはむしろ能面や死化粧、なぜ死体が裸のまま放置されていたのかといった部分が中心です。二重、三重の思惑によって形成される構造や状況の逐一に“戦後間もない”時代性が強く反映され、取り入れられている点もさることながら、動機の異質さとそこに込められた想いは狂気と呼ぶには悲しすぎ、市井の人間にはどうにもならない歴史の波の大きなうねりの中に生み落とされたいくつもの悲劇をまざまざと焼き付けるがごとき真相はどこまでも胸に迫ります。
 また、創設から何年も経ちミステリ新人賞としての地位をすっかり確立した感のある福ミスが本来持つ性質に立ち返ったてみたとき、本書は地方文学賞における本格ミステリの在り方を示した最上の作品でもあると思います。ただ「その街を舞台にしました」 「この選者の作風を継ぎました」ではなのです。ミステリとして、小説として、この地方文学賞に投じられる必然性が確かにある。
 憲法改正議論がさかんに叫ばれ、戦後日本の安全保障政策が転換期を迎えていると言われるこのタイミングで、本作のような本格ミステリが世に出た意義は大きいでしょう。


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はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

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1.トリプルプレイ助悪郎(2007年刊)   2.名探偵に薔薇を(1998年刊)             3.化物語(2006年刊)          4.時砂の王(2007年刊)                  5.天帝の愛でたまう孤島(2007年)

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