2015.04/29 [Wed]
ジョン・ジャクソン・ミラー『スター・ウォーズ 新たなる夜明け(下)』
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★★★★☆
ケイナン、前からずっと思ってたんだが、おまえさんには“行くあてのない男”ってのがよく似合ってる。
“逃亡中の男”ってのは、おまえさんの柄じゃないぜ
封印していたジェダイのフォースがふたたび表に出てしまったケイナンは、ゴースを去ろうと考えるようになった。だが、帝国の伯爵ヴィディアンを追うヘラと行動をともにするうち、ゴースの衛星シンダを爆破し、その地中に眠る稀少物質ソリライドを大量に生産するという驚愕の計画を耳にすることになる。犠牲になった仲間たちのため、ケイナンはヘラとともに敵地へ乗り込むことを決意した……。
『スター・ウォーズ 新たなる夜明け』下巻。
ヴィレッジブックスから刊行された「SW」の正史小説の後半戦です。ラルへの所業を目の当たりにし、スケリーの特攻に巻き込まれてヴィディアン率いる視察部隊と交戦せざるを得なくなったケイナンとヘラ。そこに情報提供者だった元同僚の後を継いだザルーナが加わり、ヴィディアンによる計画を衛星爆破計画を阻止するため、恩人であり友であるオカダイアを救うため、4人は一路シンダへと向かいます。
いよいよ本格的に物語が動き出した感のある下巻は、これまで飄々としたスタイルを崩さずに帝国のやり方に適度な折り合いをつけて生きてきたケイナンが、数少ない心許せる人々を失い、巨悪と対峙することを決意します。旧共和国時代のジェダイ・コードは執着や愛を否定していますが、やはり人間の行動は自然な感情と共にあり、友の仇討ちとゴースを守らなければならない使命感が枯れ腐っていたケイナンの心を奮い立たせます。
こういうところを見るとやはり人間の根源的な部分を否定し、抑え込もうとしてきた共和国時代のジェダイの教えはどうしても歪に思え、滅びの道を辿ったのもむべなるかなと改めて実感させられますね。
ケイナンがライトセーバーを構えている表紙イラストとは裏腹に、作中で実際にライトセーバーを抜く場面がなかったのは意外でした。「スター・ウォーズ」小説である以上、読者の多くはド派手な大立ち回りを期待するのが普通というもので、そこを敢えて封印し、ライトセーバーはあくまでも護身用、安易に使えない最後の手段として温存したまま終えたのは随分と思い切ったことをしたなぁと。
ジェダイにとってライトセーバーは誓いの証であり、ケイナンにとってはフォースと決別しても捨てられなかった唯一の心残りでもあります。それを胸に闘うというのは、かつてジェダイになって銀河中を飛び回ることを夢見た純粋だった頃の自分と向き合うことでもあるハズです。
それでもケイナンはいまはまだその時ではないと判断し、ライトセーバーを抜かなかった。これはケイナンがもはやその昔目指したジェダイとは別の道を歩み出したことを意味します。そしてそんなケイナンがジェダイだから、有能だからといった理由でなく、単純にひとりの人間として必要とされる。最初から彼の過去ありきでヘラがケイナンを誘っていたのなら、いまのような関係は決してなかったことでしょう。
アニメ本編の第1話でライトセーバーを手にしたケイナンにゼブやサビーヌが驚いた様子だったのを見るに、もしかするとケイナンは彼らの前でもその時点までジェダイであることを話していなかったのかもしれません。そしてそれが知れた前でも後でも、彼らの絆は変わらない。ジェダイとしてのケイナン・ジャラス――ケイレブ・デュームが帰還するのはまだもう少し先、エズラとの出逢いを待つこととなりそうです。
とはいえ補給基地を舞台にしたクライマックスの活劇は申し分なく、ケイナン、ヘラ、スケリー、ザルーナの4人がヴィディアンと帝国兵士の包囲網を掻い潜り、基地破壊と精製船爆破、ゴースへの避難指示発令を目指す最後半は実にスリリングで盛り上がります。
ヴィディアンもただ冷血な悪役で終わることなく、彼自身が心に弱さと傷を抱えた人物として描かれ、物語にいっそうの深みと悲哀を持たせます。
シンダという衛星の効果もあってか、エピローグの美しさは個人的にはこれまで読んだ「SW」小説の中でもトップクラスでした。
ちなみにそこで触れられているクローン戦争時代にジェダイがヘラの町を救ったエピソードは『クローン・ウォーズ』シーズン1のライロス三部作(第19話~第21話)のことで、彼女はその話に登場したトワイレックのレジスタンスのリーダー、チャム・シンドゥーラの娘だったりします。
作者の作風の問題なのかはわかりませんが、本作ではヘラの出生や現在置かれている立場にしてもオーダー66時のケイナンの状況にしても比較的曖昧な描写で済まされていて、まだまだ描き込むべき余白がありそうです。
従来のスピンオフが「レジェンズ」となり、旧スピンオフの『破砕点』で暗黒面に堕ちて眠りについたハズのデパがオーダー66の際にケイナンと行動を共にしていたなど完全に過去設定をリセットしたように感じられる箇所があるにはあるものの、この書き方だと『EP3』時にケイナンを守ったとされるデパがもしかすると『破砕点』以後に目覚め、ライトサイドに帰還していた可能性も否定できず、『EP7』の時代設定が最初に報じられた30年後から変更されるとの情報も併せて鑑みるに、映画でチューイーが生きているのもユージャン・ヴォング戦争より前の時代だからじゃなかろうか、といまさらながらに淡い期待を寄せてしまうのでした。
未練がましいと言われても「レジェンズ」が好きなんだもん。
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