2009.11/18 [Wed]
勇嶺薫「午前零時のシンデレラ」
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★★★☆☆
今から話すことは、ありがたいことに証拠が全く無い。
M大学論理学教授――夢水清志郎。スラリとした身体を黒の背広に包み、黒の度入りサングラスを愛用する。担当講義は休講ばかりで、申告するだけで単位がもらえる。そんな彼が顧問を務めるクラブ、探偵同好会の唯一の会員である風街美里は、夢水教授の指示で先日報道されたとある殺人事件に関するレポートをまとめていた。玩具会社の会長宅で、玩具開発を任されている長男と会社の経営を任されている次男の双子の兄弟がほぼ同時刻に殺された事件――南家同時連続殺人事件に関するレポートである。果たして犯人は誰なのか?兄弟はなぜ同時に殺されたのか?夢水は美里を連れ立って南家を訪れ、警察を尻目に独自に捜査を開始する!
“0番目の事件簿”と称してミステリ作家のデビュー前に書いた作品を載せている『メフィスト』。『メフィスト 2008年9月号』に掲載されたのが名探偵・夢水清志郎事件の大学教授時代のエピソードであり、この作品が夢水清志郎の登場する最初の作品だそうです。
先日、某古書店チェーンでようやく入手することができました。こんな貴重な本をたったの100円で売っているなんて!価値がわからないって、素晴らしい!!
なるほど最初期の作品ということで、大学教授編で風街さん――美里と共にレギュラーを張っている勇嶺美奈湖も未登場。というかまだ知り合ってすらいないようで、『神隠島』での記述と今回の『午前零時のシンデレラ』の後ろに添えられたあとがきから推察するに、ふたりが美奈湖と出逢うのは『湖畔荘事件』っぽいです。
また夢水清志郎の口調や態度が若干乱暴だったり、タバコを愛用していたりと、いまとは少しキャラクター造形に差異が見られます。とはいえ、この後に様々な事件を通して丸くなっていったとも考えられるので、そこらへんはあまり気になりませんでした。
(以下、本編についてのネタバレあり)
短編とはいえ、殺人のトリックがかなり大掛かりだな、というのが第一印象。それこそ美里が指摘したように、もっとスマートなやり方がたくさんあったわけで。しかし犯人の立場なども考えると殺人自体が一種の“シンデレラの儀式”でもあったわけで、そういう精神論的なことを含めると、わりとああいった大掛かりな仕掛けにも納得できるかも。
ただ、犯人が“気付いたこと”に対しては「うーん」という感じで、首を捻らざるを得ないというか……。結果的に犯人を殺人という選択にまで至らしめた動機の部分とその“気付いたこと”は両立できないと思うんですよね。まぁ決定打となった“その時”だけ、入れ替わりが行われていたというのはアリなのかもしれないですけど、いくら“フリ”をしていても誤魔化し切れるものなのかなぁ、と。
さて、この作品。第四章が終わり、事件は解決しますが、おまけで教授が唐突に「“FISH STORY”という言葉を知っているかい? “FISH”には“ホラ”という意味がある」と言ったことで“この事件”は本当にあった出来事なのか、という問題が発生します。期せずして同じ勇嶺薫名義の『赤い夢の迷宮』と同様の一種のメタ的な結末になっていたわけです。
――と、いうわけで。
この結末についての考察は長くなりそうなので後日、別エントリーにて。
(つづく!)
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