2015.03/22 [Sun]
鳥飼否宇『死と砂時計』
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★★★☆☆
世界各国から集められた死刑囚を収容する、ジャリーミスタン終末監獄。親殺しの罪で収監されたアラン青年は、“監獄の牢名主”と呼ばれる老人シュルツと出会う。明晰な頭脳を持つシュルツの助手となって、監獄内の事件の捜査に携わるアラン。死刑執行前夜、なぜ囚人は密室状態の独房で斬殺されたのか? どうして囚人は闇夜ではなく、人目につく満月の夜に脱獄したのか? そして、アランが罪に問われた殺人事件の真相とは……。
死刑囚のみが収監される終末監獄を舞台に、牢名主の老人とその助手を務める語り部の青年が不可思議な事件を解決してゆくノンシリーズものの連作ミステリ。死刑執行の命令がいつ何時下るかわからない環境下で、探偵も犯人も被害者も皆が皆死刑囚という一風変わった設定のみならず、エスニックな空気を感じさせる一方で国を挙げてのビジネスとして終末監獄が設置された経緯、最新鋭の技術が投入されコンピューター制御された鉄壁の牢獄といった近未来SFさながらの世界観が基盤となっているのも大きな特色です。
こうした要素が事件のシチュエーションをより魅力的な推理ゲームに特化させ、また物語全体の構築においても大きな役割を果たしています。比較的ストレートな本格である前半から後半部にいくに従ってSF色が一層色濃く出始めて、最終的にそれがクライマックスの盛り上がりとフィニッシングストロークへと繋がっていく構成もよく考えられており、現実準拠なミステリではケチの付き兼ねない多少の無理筋も“アリ”にしてしまえるところはSFミステリの面目躍如。大きな強みといえるでしょう。
自らの命を縮める危険を冒してまでなぜ翌日には刑が執行されるハズの確定囚を殺す必要があったのか、墓守役の囚人が埋葬者を掘り起し損壊させる理由は何なのか。外界とは隔絶された終末監獄だから起こり得る、異質な論理による合理的真相も読みどころです。
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