2015.02/17 [Tue]
岡田秀文『源助悪漢十手』
![]() | 源助悪漢(わる)十手 (光文社時代小説文庫) 岡田 秀文 光文社 2009-03-12 売り上げランキング : 549786 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★★☆
弱みを握られれば骨までしゃぶられ、些細な借りを作ればいつまでもたかられ――。浅草西仲町の御用聞き、源助の巨体を目にするや、町中の人が逃げ隠れする毎日だ。ところが、ひとたび十手を握ると、謎に満ちた事件をたちまち解決する豪腕ぶり。その特異な能力も、めったによい方に発揮されないのが困りものだが……。
強請り、たかりを得意とする巨漢で悪徳な岡っ引きが金の匂いを嗅ぎつけて、己が欲望のために事件を解決していく連作時代ミステリ。昨年発売の『2015本格ミステリ・ベスト10』に掲載された作家インタビューにて触れられており、興味を抱いたので読んでみました。
収録された7篇はどれも水準が高く、著者自ら本格を意識して書いたというだけあって現場の状況から綺麗なロジックで犯人まで辿り着く「山谷堀女殺し」、バカミスすれすれのナンセンスなトリックが炸裂する「井筒屋呪いの画」、袋小路からの人間消失を扱った「下谷町神隠し三人娘」、インチキ霊媒師の妖術を暴く「元吉町の浮かび首」など、時代小説好きよりもミステリ読みにウケそうな内容ばかりです。
“悪漢”のタイトルどおり、主人公の源助はどちらかといえばジャイアン気質な人間であり、現代ほど人の生き死に対する倫理的、法的なハードルが高くないことが奇妙なユーモアを生んでいるのも大きな特長で、第3話「猿谷町うっかり夫婦」は登場人物のジョークのようなキャラ設定を事件解決のキーに盛り込んでくるばかりか、その無頓着すぎる結末の楽観具合にかえってぞくりとさせられました。
ほぼ答えに近しいヒントを読者の目の前にちらつかせつつもそれをそうとは気付かせず、発想を転換させることで事件の構図そのものを巴投げのごとくひっくり返す最終話「茅町伊勢屋の藤十郎」もテクニックの面では負けていません。
はっきり言って『本ミス』ベスト10圏内を充分に狙えるレベルの短編集であり、この年のアンケートで誰一人として本作を挙げた投票者がいなかったのはフシ穴だったとしかいえないでしょう(時代ミステリの特集記事でかろうじて紹介はされていました)
昨年、一昨年と「月輪龍太郎」シリーズのスマッシュヒットでようやっとミステリ業界にもその名を知らしめた感のある作者ですが、まだまだこうした埋もれた佳作があることを肝に銘じ、読む側も広くアンテナを張っていかなくてはならないと反省させられました。
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