2015.02/13 [Fri]
柳広司『ラスト・ワルツ』
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★★★☆☆
頭の固い陸軍のお偉いさん相手に、結城中佐一人がいくら奮闘したところで、
やれることなど高が知れているのかもしれない。スパイは平時においてこそ活躍する存在だ。
いったん戦争が始まってしまえば存在意義そのものが失われる……。
華族に生まれ、陸軍中将の妻となるが退屈な生活に倦んでいる顕子。米大使館で催された仮面舞踏会の会場で、なぜか、ある男のことがしきりに思い出された。目に見えぬ黒い大きな翼を背負っているかのような、謎の男。かつて窮地を救ってくれた彼と、いつか一緒に踊ることを約束したのだった。だが、男のことを調べると意外な事実か浮かび上がり……(「舞踏会の夜」)。 疾走する特急車内。「スパイ殺し」を目的としたソ連の秘密諜報機関“スメルシュ"に狙われるD機関の諜報員を描く「アジア・エクスプレス」、ドイツの映画撮影所で、ナチスの宣伝大臣ゲッベルスと対峙した日本人スパイを描く「ワルキューレ」を収録。
「ジョーカー・ゲーム」第4作。
陸軍内に作られたスパイ養成組織“D機関”に所属する名もなき諜報員たちが世界各地で暗躍するスパイ・ミステリの最新刊。従来よりもボリュームが減った短編2本+中編1本の全3話構成、先月末には実写映画版も公開され、このタイミングでのリリースは大いに宣伝色を感じさせるところです。
実際、今巻のメインエピソードとなる中編「ワルキューレ」では戦時下における大衆文化の在り方として軍主導の映画製作による国民の印象操作が題材に取り上げられていて、かなり露骨にタイアップを狙ってきています。とはいえこれまでにもさんざん描かれてきたように、D機関のスパイに何より重要なのは目立たないこと。ド派手な活劇は映画の中だけですよ、との主張が作中で声高に念押され、映画『ジョーカー・ゲーム』を真っ向から痛烈批判しているようでこんなことを書いて大丈夫なのかと逆に心配になってきます。もしかして柳さん自身、今回の映画の内容をあまり快く思っていないんじゃなかろうか……。
今回収録された作品はシリーズ通してみると変則的なものが多く、それ故に既刊と比べると異色な1作に仕上がっています。
ただしそれが良い方向に作用しているかというとまた別の問題で、特に「ワルキューレ」ではトリッキーな構造に持ち込むためにストーリーそのものを犠牲にし、どうしてもチープな展開にせざるを得ないジレンマに陥ってしまっていました。そういった意味でも正統派の「アジア・エクスプレス」がコンゲームとしても最もシンプルで出来が良く、伏線の回収も綺麗で安心して読めました。
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