2015.02/07 [Sat]
安萬純一『青銅ドラゴンの密室』
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★★★☆☆
百年まえ、できたばかりのあのドラゴンの内部で人が死んだ。
それも非常に不思議な殺され方をしたらしいという噂話を聞いたのです。
ホルツマイヤー家の敷地内にある青銅のドラゴンの塔。そこに近代建築研究家と称するラグボーンが訪ねてくる。探偵でもあるという彼に当主ゲオルグ・ホルツマイヤーは塔の調査の見返りにある事件の謎を解いて欲しいと依頼する。調査の最中、ゲオルグの孫が惨殺される事件が起こる。その殺され方は百年前にドラゴンの建造後まもなく内部で二人の旅芸人が殺された方法と同じものであった。
“《奇想》と《不可能》を探求する革新的本格ミステリー・シリーズ”がコンセプトの南雲堂叢書、本格ミステリー・ワールド・スペシャルの1冊。タイトルどおり、青銅ドラゴン像の腹内で起きた密室殺人に使用された大規模な物理トリックの解明が主体のミステリです。
4体のドラゴンが鎮座する幻想的な光景の中で100年前の事件を再現するかのように見つかる密室死体、金銭絡みと後継問題でいざこざが燻る元領主の末裔一族、ふらりと現れる名探偵、と現代ヨーロッパを舞台としながらどこか黄金期のミステリを思わせるオーラはデビュー作『ボディ・メッセージ』とも通じるものがあり、掲げられた作品テーマに作者の持ち味がよく合致しています。
ただ、それによって生み出される物語が古色蒼然としすぎているのもまた事実で、ありがちな設定に王道のストーリーライン、いかにもな空気感はこれまで幾人もの手によって生み出されてきた新本格とさして変わることがなく、キャッチーなキャラクターがいるわけでも誰も考えつかないような独創的なトリックが炸裂するわけでもないため、21世紀のこの時代に改めて新作のミステリとして発表する意味があるかどうかは疑問です。
構成にしても第一の解決でパーツを余らせすぎているので後の展開が透けて見え、読者を驚かせようと微妙に煙に巻いた書き方が逆に状況を呑み込み難くしていて、より混乱を招いているのもスマートではありません。
好きな人には好きなタイプの作品かもしれませんが、“あの頃の古き良き本格ミステリ”を目指したという懐古要素を除けば、数多あるうちの一作以上のものとはなり得ていないというのが感想です。
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