2009.11/10 [Tue]
西尾維新『DEATH NOTE アナザーノート ロサンゼルスBB連続殺人事件』
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★★★★☆
しかし、それでもなお、正義は他の何よりも、力を持っています。
――優しさです。
2002年7月31日、ハリウッドに住む男性、ビリーヴ・ブライズメイドが殺害された。その4日後にはダウンタウンに住む少女、クオーター・クイーンが撲殺され、それから9日後の8月13日にはウエストサイドに住む女性、バックヤード・ボトムスラッシュが刺殺される。殺害方法の異なるこれらの3つの殺人事件の共通項は殺害現場の壁に打ち付けられた藁人形と不可解な密室状況――そして、被害者のイニシャルが同じアルファベットのぞろ目であったこと……。任務遂行中のミスでFBIを停職中の捜査官・南空ナオミのもとに世界的名探偵・Lからの接触があったとき、後に「ロサンゼルスBB連続殺人事件」と呼ばれるこの事件は解決への一歩を漕ぎ出すこととなる――。
連載中のマンガ作品をオリジナルストーリーでノベライズに仕立てる「ノベライズ維新」。
本作は大場つぐみ・小畑健によるマンガ『DEATH NOTE』のノベライズです。
原作はアニメ版のみ全話視聴済み。
熱狂的なファン――というより信者を持つ作品のノベライズを担当することは、なかなかに大変なことであると思います。あのキャラはこういう言い方はしない、とかなんとかで賛否両論、議論百出だからです。
(以下、ちょっと過激な意見なのでデスノファンの方はご用心。あとネタバレも多少……)
この『ロサンゼルスBB連続殺人事件』も決して例外ではありません。本作で主役を務める南空ナオミのキャラがあんなじゃないとか、西尾維新の書くLには魅力のカケラもないだの、メロの書く文章がらしくない等々、、、ほんと、維新ぼんご愁傷様です、て感じです。
個人的な意見を述べれば、キャラに関してはきちんと原作(といってもアニメしか見たことがないのでアニメ版を指しますが)の“延長線上”にあって違和感のないものに仕上がっていたかと。
だいたい。こんな言い方をしては悪いかもしれないですが、原作における南空ナオミの出番って、月と道で話した後、まんまと行方不明にさせられたくらいのものですし、恋人を失ったばかりで平静でなかった彼女にしてみれば、あの状態がフルでなかったことは想像に難くありません。一方で本作の南空は停職中ではあるものの、幾分明るいキャラクターとして描かれていますし、正義感や倫理観を掲げているわけではないといいつつ、肝心なところで重大な犯罪を犯していた子供を撃てなかったこと、そしてそのことに逡巡する姿などとても魅力的だと思います。
Lにしてみても引用文なんかが最たるもので、ああいうことをさらりと言ってしまうのがすごいところであり、格好良いところですよね。自分が外に出ないのが“最善”とわかっていながら、わざわざ事件解決の功労者である南空に会いにくるわけですし。名乗りこそしないものの、そういうところに躊躇わないことこそが世界最高の名探偵である所以でしょうか。
本家『DEATH NOTE』のエッセンスも上手く生かしていると思います。
死神の目に関しては、いかにも維新ぼんがやりそうなことですね。“突然変異――異質なものはどこにでも存在する。生来的に死神の目を持たない人間がこれだけ生まれてくるのだから、その逆に生来的に死神の目を持つ人間が生まれてくることも、何ら不思議なことではない”みたいな。
そもそも原作に名前がちらりと登場しただけの「ロサンゼルスBB連続殺人事件」という名称から、よくこれだけ話を膨らませられたな、と。原作者が語感だけでなんとなく付けたと思われるこの名称。“BB”のダブルミーニングもそうですが、後付けの上手いこと上手いこと(誉め言葉)。それが「ロサンゼルスBB連続殺人事件」と呼ばれる必然性が充分に伝わってくるのがすごい。
ラスト、ビヨンド・バースデイの結末についても『DEATH NOTE』ならではのオチで、かなり良かったのではないでしょうか。
さて。本作最大のどんでん返しについてですが、残念なことに、自分の場合は事前情報を知りすぎました。本書が「やられた!」ミステリであるということを知らずに読んでいたのなら、そこにかなりの驚きがあったのでしょうけれど、残念ながら「やられた!」ミステリであるということは聞いていたので、何が「やられた!」なのか身構えながら読んでしまった結果、早い段階――といかほぼ序盤でその“返し方”に気付いてしまいました。それしかないだろ、と。ミステリ読みとしては悪い意味でダメダメですね。まあ綾辻行人の『十角館の殺人』のように「やられた!」ミステリとわかっていても騙される作品もあるので、そこらへんは西尾維新に残念賞!@あずまんが大王なんでしょうけど。
ともあれ、ストーリーのスマートな展開とエピローグの秀逸さは西尾作品の中ではトップクラス。
かなり好きな作品です。
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