2015.01/11 [Sun]
舞阪洸『御手洗学園高等部実践ミステリ倶楽部 亜是流城館の殺人』
亜是流(あぜる)城館の殺人―御手洗学園高等部実践ミステリ倶楽部 (富士見ミステリー文庫) 舞阪 洸 八雲 剣豪 富士見書房 2000-11 売り上げランキング : 1331980 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
要するに、昨日より今日、今日より明日と、つねに強い敵が出てきて、主人公の前に立ちふさがる。
そして、主人公は昨日の敵を今日の友として明日の敵を倒していかなくちゃいけないのさ。
(中略)
アンケート至上主義の『ジャンプ』では、この図式に乗っていないと、なかなか結果を出せないのさ。
結果を出さないと、打ち切られちゃうからね。ミステリは、この図式に当てはまらないんだ。
「なぁんか足りないよねぇ。高原の美味い空気、食事、ビールに殺人事件まであるってのに」村櫛天由美はつぶやいた。「温泉よ、温泉がたりないのよ! 温泉で血の巡りをよくすれば、迷推理が浮かぶはずよ!」すかさず、有栖が叫んだ。伊場薫子は、御手洗高校に入学してきた一年生。ミステリー作家になる夢の実現のため、入部した部活「実践ミステリー倶楽部」は、アヤシイ部員ばかり。「殺人を呼ぶ」女装の麗人、夏比古。各地に別荘を持つお嬢様の有栖。顧問で謎の多い大学院生の天由美。奇妙な面々が、ふたつの密室殺人に挑む。
「御手洗学園高等部実践ミステリ倶楽部」第1作。
いまは亡き富士見ミステリー文庫の創刊ライナップを飾ったラノベミステリ。普通の女子高生、伊場薫子が騒々しい先輩たちに翻弄されながら、趣味と暇潰しを兼ねた殺人事件の捜査に駆り出される中編集です。
タイトルにもなっている「実践ミステリ倶楽部」の“実践”とは、その名のとおり行く先々で出遭った殺人事件に首を突っ込んで実地で解決してゆくとの意味が込められています。
収録されている2本はどちらも密室を扱った殺人事件。それぞれ別荘地の温泉とヨーロッパの古城を真似て建てられたお館でミステリ作家が殺されます。大枠の設定以外にも、いざ事件が解決してみるとトリックの根幹部や鍵となる要素に少なからず共通項が散見し、意図的なのか偶然か、結果的に1冊の中編ミステリ小説としてはほど良いまとまりを生んでいました。
両事件共にトリックに斬新さはなく、むしろタネだけ見ればいかにも初級編な内容ですらあるにも関わらず、「事件簿1 完全密室の死体」では全体の図式を変えないままに構図だけを逆転させて魅せるなど、あながち悪いとも言い難い。所詮は高校生の部活動であり、警察の導き出す結論と違っていたところで何らアクションを起こす気力も義理もないという割り切りっぷりはいかにも“ドタバタ本格”の銘に相応しくある一方、書く人が書けば悪趣味なアンチミステリとでも囃されそうでもあって、一体どこまでが作者の手腕でどこからナチュラルにやっているのか如何とも判断がつきません。
作中の小ネタからミステリ好きなのは伝わってくるのですけれど、この作品だけではその技量がまったく推し量れないから扱いに困ります。2000年の刊行にしてギリギリ90年代を引き摺った上滑り気味な寒々しいノリと、ふた昔以上前の売れないギャルゲーのようなイラストに目を瞑れるのなら、読んでみても良いかもしれません。
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