2014.12/18 [Thu]
歌野晶午『ずっとあなたが好きでした』
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★★★★☆
甘く切なく、ちょっと痛い恋の話いろいろ。国内外の様々な場所で、いろいろな男女が繰りひろげる、それぞれの恋模様。サプライズ・ミステリーの名手が贈る恋愛小説集……だが?
※未読の方で少しでも本書に興味のある方はこの一行でただちに引き返し、速攻で読んできてください。
ネタバレには極力配慮しているつもりですが、これ以降は何の保証もできません。あくまで自己責任ということで。良いですね? 記事を閉じましたね? それでは始めます。
そんなこんなで歌野晶午による恋愛短編集です。小学生から社会人、果ては六十代までと実に幅広い年代の恋愛模様が描かれて、その内容もミステリ的なオチのあるものから学生時代のほろ苦い失恋話であったり、密室殺人や集団自殺といった刑事事件を扱ったものまで実に多岐に渡ります。1本、1本のエピソードはそれほど長いものではありませんが、全13篇の合計500ページ超えというのは短編集にしてはかなりの長大さでしょう。
ランキング期間ギリギリの10月半ばの刊行で且つミステリらしさをまるで感じさせないあらすじ、その分厚さも手伝って本格ファンの中には敢えて避けた方も少なくないだろうことが予想できる本作。しかしそれこそが大きな罠でした。『本ミス』1位を経験したこともある著者だけあって、そのキャリアに恥じないだけの趣向がしかと凝らされています。
ミステリ短編集と聞くと読者はどうしても身構えてしまうものであり、読書中は常に作者が何らかの仕掛けを忍ばせていないかと予め想定されるパターンをいくつかシミュレーションするものです。が、本作では敢えてその警戒心を解かせることで不意打ち的に斬り込んでくるのです。
一見するとソフトカバーの恋愛小説短編集には似つかわしくないボリュームこそが最大のカモフラージュになっているのは、恐らく偶然ではないでしょう。読み手が考え得る可能性を一旦思考の埒外に追いやるには充分すぎる文量です。
作品の性質上、少しでも前情報を知るとネタ割れの可能性も無きにしも非ず、そうした意味では非常にデリケートで危ういバランスの上に立った脆さを併せ持つ作品ではあるものの、それだけに何も知らずに読んだ人間の受けるインパクトは絶大であるに違いありません。
どこをどう取り上げても核心を明かす危険性を孕んだなかなかレビュアー泣かせの作品ですけれど、最初にあれだけ警告しましたからね? この記事をここまで読んで見当が付いた、と詰め寄られても責任は取れませんよ! これでも頑張って濁したんだから……。
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