2014.11/30 [Sun]
岡田秀文『黒龍荘の惨劇』
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★★★★☆
山縣有朋の別邸・黒龍荘に、山縣の影の金庫番・漆原安之丞に対して恨みを晴らすという脅迫文が届き、数日後、漆原は謎の死をとげた。調査依頼を受けた「月輪萬相談所」の探偵・月輪は、かつて伊藤博文邸でともに書生として過ごした杉山を連れて黒龍荘に住み込むことに。広大なお邸には四人の妾を含む住人七人と使用人たちが暮らしていたが、警察と月輪たちの監視をあざ笑うかのごとく、彼らは次々と遺体となって発見されていく――史上屈指の残虐事件の裏には、国家をも揺るがしかねないおそるべき謀略があった!!
「月輪龍太郎」シリーズ 第2作。
時代小説家が本業の著者が手掛ける明治を舞台にした本格ミステリの第2弾。前作『伊藤博文邸の怪事件』が一部ミステリマニアの間で話題を呼んだこともあり、メタネタ気味に書かれた本文を読む限りではさらなる続刊も期待できそうです。
前作から10年後。時の権力者、山縣有朋に通じていたとされる漆原安之丞なる男の別邸にて起こる連続殺人事件の顛末が描かれ、どちらかといえば構成で勝負してきた『伊藤博文邸~』からより本格ガジェットを増し増して、わらべ唄に見立て殺人、執拗なまでの首なし死体とミステリ好きには馴染み深い要素満載の館ミステリとなっています。
新本格におけるお館は基本的に辺鄙な場所に建てられ、何らかのアクシデントによって外部との連絡が遮断がされた閉鎖空間で殺人劇に巻き込まれるパターンが多いのですが、本作ではその類には当て嵌まらず屋敷の隣には当然のように別の家があり、探偵役どころか被害者となる住人たちでさえ自由に外を行き来できるアンクローズドな状況にあります。
そうしたミステリとしてはイレギュラー、現実を鑑みると当たり前なシチュエーションの中で行われる連続殺人の不可解性に答えを見出し、そんな空間であるからこそ通用する論理と視点のズラしが生む犯行計画の全容は大胆不敵という外ありません。
黒龍荘の惨劇の真っ只中に確かにいたハズなのに、すべてが虚構と化し狐に摘ままれたかのようにも思えてくる読後感は、並み居る館ミステリの中でもひときわ異彩を放っています。
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