2014.11/27 [Thu]
菅原和也『柩の中の狂騒』
![]() | 柩の中の狂騒 (単行本) 菅原 和也 KADOKAWA/角川書店 2014-08-27 売り上げランキング : 439550 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
希少な『透明標本』を所蔵する孤島の博物館を訪問した9人の男女。そこには『悪魔』が展示されているという。集まった参加者を待ち受けていたのは、突然の荒天と惨劇の幕開けだった──。
年末のランキングにはまったくもって掛からなかったものの昨年上梓された『CUT』で本格ミステリの書き手としてのセンスの良さを見せつけた横溝賞作家、菅原和也の最新作。生物の肉体を特殊な薬品で透明化し、骨格部分のみ青や紫に染色した透明標本の制作に心血を注ぎ孤島に博物館を建てて隠遁している分類学の元権威の元に招待された人々が殺人劇に巻き込まれるバリバリの孤島ものです。
狂気を誘う赤色に彩られた不気味な館、館内に陳列される透明標本の数々、人嫌いの家主、絶海の孤島、集められた訪問者、三角形と思しき学生たち、そして名探偵――。誰がどう考えても事件が起きないわけがない舞台立てに案の定事件が発生し、首斬り死体や密室などこれまた王道すぎるほど王道な展開へと発展していきます。
この作品の最大の特色は『柩の中の狂騒』のタイトルどおり、登場人部たちが自ら進んで惨劇のドツボに嵌まっていくことです。孤島とはいっても仮にも人が暮らしているため連絡手段は確保されており、最初の死体が発見された時点では携帯電話も充分使用可能な状況にあったにも関わらず、それぞれの思惑が働いた生存者による多数決の結果警察への通報という選択肢が排除され、素人探偵による推理ゲームを行うことになる。引き返せるのにそうはせず、彼ら彼女ら自身の手で自業自得とも茶番劇ともいえる孤島ミステリに突入していく異様さはまさしく狂騒と呼ぶに相応しく、現代社会におけるクローズド・サークル成立の難しさを逆手ともいえる手段で実現させてしまうのです。
その性質上、いわゆる謎解き至上主義の真っ当な本格に求められるあれこれとはまったく趣を異にしたアンチミステリの風合いすら漂いますが、古今東西のクローズド・サークルものにおいてなぜお決まりのように殺人劇は起きるのか?という根本的疑問に対して答えを示してみせた問題意識の高さは、やはり『CUT』の作者だけなことありました。
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