2014.11/26 [Wed]
叶紙器『回廊の鬼』
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★★★☆☆
老健施設「さんざし苑」の入所者・成田正三は、目を離すとベランダへ行こうとし、何度注意しても聞く耳を持たない。介護職員の四条典座は、それが成田の妻の死と関係しているのではないか、と調べはじめる。妻は昨年、成田家のベランダで全身緑色の服を着て、両手の爪を剥がれ、雨のなか遺体で見つかったのだ。妻の異様な最期の真相がわかれば、成田の閉ざした心も融けるのではないか――。典座は調査に乗り出すことに決める。
「四条典座」シリーズ 第2作。
第2回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作『伽羅の橋』に続き、老健施設で働く介護職員の四条典座が探偵役を務めるミステリです。近頃は本格ミステリの中でも愛川晶『ヘルたん』など介護業界を扱った作品をちらほら見掛けるようになり、医療ミステリのように一ジャンルを形成し始めていることを考えると高齢化社会がそれだけ身近な問題となってきているのを感じます。
上から下まで全身緑衣、一本角をたたえすべての手の爪が剥がされ“緑の鬼”と化した妻の死体という冒頭の入りは読者の好奇心を誘うには充分すぎるほど魅力的。シチュエーションの異様さと奇想性に満ちた謎の提示に、早々と興味を惹き立てられます。
ただし伏線の張り方が比較的あからさまでまたクドくもあるために、最大の疑問である鬼の格好の理由に見当が付きやすく、加えて著者が福ミス出身者の島荘チルドレンであることを勘案すると事件の全体像がおおよそ把握できてしまうのは残念です。奇怪なシチュエーションを合理的な結論に着地させるミステリとしては当然のプロセスも、あまりに現実的な解決に真相よりも最初に提示された謎の方が完全にインパクトで勝ってしまっていて拍子抜けな感が否めません。
それでも物語は大変面白く、クリマスのさんざし苑を襲う非常事態における真に迫った切迫感とドラマチックともいえる演出は感動的ですらあり、高いリーダビリティにも支えられ非常に読ませます。謎解きのレベルこそそれほどではないものの小説としては間違いなく満足できる内容でした。
ひと足飛びに2作目から手に取りましたがシリーズ1作目でありデビュー作の『伽羅の橋』も読もうと思います。
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