2014.11/24 [Mon]
芦辺拓『異次元の館の殺人』
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★★★★☆
反骨の検事・名城政人が殺人容疑で逮捕された。検察内部の不正を告発しようとしていた彼の罪状には、冤罪の疑いが色濃い。後輩検事の菊園綾子は、好敵手で弁護士の森江春策に協力を仰ぎ、証拠品の放射光による鑑定と、関係者が集った洋館ホテル“悠聖館”での事情聴取に乗り出す。しかし、放射光鑑定をするはずの研究機関で暴走事故が起こり、“悠聖館”では新たな殺人事件が発生する。それは、菊園検事を謎と推理の迷宮へといざなう招待状だった――パラレルワールドと化した事件現場。真相を見抜かないと、元の世界にはもどれない。知恵と推理と正義感を武器に、迷い込んだ異次元で、孤独な闘いがはじまる。
「森江春策の事件簿」第22作。
量子加速器の暴走事故によってセカイが分裂、正答を得るまで延々パラレルワールド内でトライ&エラーを繰り返す特殊な状況設定の下に展開されるSFミステリ。シリーズものの最新刊ではありますが森江探偵はあくまで脇、メインで探偵役を務めるのは菊園綾子で初見者でも安心して読めます。かくいう私も今回が初挑戦の「森江春策」でした。
本作最大の特色は推理を間違える度によく似ているがどこか異なる並行世界に飛ばされるという設定で、推理を誤りやり直しが行われる毎に見えない力によって改変が加えられ、その推理を可能たらしめていた状況や証拠品が修正され潰されていきます。これにより読者と探偵役は徐々に狭められていく条件と環境下で、より厳密な推理を求められ、強いられることになります。
段々と変化してゆくパラレルワールドを利用した仕掛けと、分裂したセカイが修復されると同時にそれまで披露された各推理が収斂され正しい真相へと導くための布石として活きてくるなど謎解きと作品構造が密接に関わっており、ミステリとしてはかなりの力作、秀作といえるでしょう。反面、多重解決のひとつひとつが基礎の基礎な王道ネタばかりで過程の推理に独自の面白みを見出せないこと、最終的に新本格にありがちなゴリゴリの物理トリックに着地してしまうことでやっていることの凄さ、設定の壮大さのわりにイマイチ地味な印象が拭えないのは勿体なかったです。
昨今流行っているループものやパラレルワールドの要素を取り込んでいるにも関わらず洗練された緻密なSFというよりはどこかレトロな雰囲気漂う空想科学小説といった趣なのもある程度SFに通じているとちょっと古臭く感じます。それが作者の原体験に依るものなのか構想期間の問題なのかはわかりませんが、2010年代に世に問うにはやや時代遅れな感も否めません。
期せずして本年は既に同じくパラレルワールド的改変ネタを仕込んだミステリが刊行されているわけで。両者を比較するなら個人的には円居挽『河原町ルヴォワール』の方を推したいです。
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