2014.11/18 [Tue]
天祢涼『もう教祖しかない!』
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★★★★☆
老朽化した銀来団地で急速に広がりを見せる新宗教“ゆかり”。大手流通企業スザクのセレモニー事業部で働く早乙女六三志は、顧客との生前葬儀契約を守るべく、教団潰しを命じられた。ところが、同世代の教祖・藤原禅祐は訴える。「今や若者は、社会や成功者にとって搾取の対象でしかない」「そんな我々が逆転するには、もう教祖しかないのです!」そして両者は、“ゆかり”の存亡を賭けてある勝負に挑むことに――。
地方の都市の団地を中心に急速に信者を増やしつつある新宗教の青年教祖と大企業のエリート社員とが信者数の増減を賭けて争う連作ミステリ。天祢涼が前々からアナウンスしていた新興宗教(作中の表現に倣うなら新宗教)を題材としたエンタメ小説です。
一見ミステリ色の薄そうな作品ですが、「約束の期日までに定められた人数の信者を獲得できなければ解体」という条件を元に、宗教法人化を目指す“ゆかり”、生前葬儀契約を増やしたいスザクの対立する二者があの手この手で相手を騙し出し抜き合い、イベントの裏に潜む計画と打たれた布石から住民の心を掴んでは引き離す駆け引きはまさにコンゲームのそれであり、読者を驚かせ、納得させるだけの量の伏線が充分以上に撒かれているため本格といって差支えのない内容に仕上がっています。
特に最終章におけるタイムリミットが迫る中での、賛成派反対派入り混じる全団地住民を前にしての心理戦は圧巻で、互いのカードを切る毎に一分一秒単位で情勢が目まぐるしく変化するリアルタイム感は実にスリリング。『セシューズ・ハイ』でも見せた、観衆をも巻き込む“劇場型”の謎解きのケレンに通ずるものがありました。
一般的にミステリでは胡散臭く怪しげな存在として描かれがちである宗教団体を現代に則した切り口で捉え、教祖の最終的な目的が金儲けにせよ決してそれが悪意による騙しではなく、その過程で新宗教に関わった人たちに確かに幸せにしているwin-winの関係でいるのなら、それは対価を払って欲しい商品を得るビジネス行為と何ら変わらないのではないかという視点も斬新ですし、我欲にまみれていたハズの男が自分の紡いだ“ゆかり”によって知らず知らずのうちに変わっていたことを思わせるラストも爽やかで良かったです。
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